第6話 塔からの脱出


 搭の上から降りられる所がないかと何度も見ましたのよ。ツルツルの石造りで、しかも円形搭ですもの。それに高さが高さなの。下を見ただけでクラクラします。


 監視人さんにセリアさんのことを話してみましたわ。逆に私の方が魔物ですって。頭が悪いったらありぁしませんわ。言葉は分かるのに、話になりませんの。


 本当にどうしたらよろしいのでしょうか。ああ、愛しきラファエル様。居ても立ってもいられません。もう、監視人さんに何としてでも分かってもらうしかないようです。ですが、肝心な監視人さんはおられませんのよ。


 スープを貰って頭がおかしくなったのかしら。仕事を放り投げて結婚式を見に行ったようです。鉄格子があるから逃げられないと思ってらっしゃるのね。鍵もちゃんと持って行っていらっしゃるし。


 あら、これは珍しい。ガーフィールド卿ではございませんか。お久しぶりですね。どこから来られたんですか。窓からですか。流石はおサルさんですこと。あのツルツルの石の壁を登って来られたのですね。


 今日は何の御用でしょう。私はこの通り、立て込んでいるのよ。お相手できるかどうか。え? 窓の外を見ろって。なるほど、ロープがぶら下がっています。これで降りろっていうのですね。


 無理です。あなたなら大丈夫でしょうが、私は窓の格子を抜けられません。細身のように見えて、私って結構グラマラスなのよ。え、違う? あ、上? なるほど、頭頂部からですね。ごもっともですわ。では、向かうとしましょう。


 これで降りろというのですね。凹凸のある鋸壁きょへきの凸部分にロープが括りつけてあります。ツタを編んだようですね。結構丈夫です。下を覗いてみましょう。クラクラします。


 駄目。これを降りるのは、私にはやっぱり無理です。だってスカートでしょ。下からお尻がまる見えなんですもの。淑女がやるべきことではありませんわ。


 ああ、愛しきラファエル様。どういたしましょう。ああ、これしかないのはわかっているの。大丈夫、誰も見ていないわ。皆さんこぞって結婚式を見に行かれたのよ。アンジェラ、思い出すの。王太子妃教育が厳しくても耐えたことを。生まれながらの美貌に更に磨きをかけるためデザートも我慢したんじゃなかったの。


 下を覗いてみる。ああ、やっぱりクラクラする。もう駄目。目がくらむ、気が遠くなりますわ。あら、やだ。またあの光景あのまぼろし。我が始祖アルフレッドと初代国王グランラン・アルドアン。


 二人は貪りつくように激しくキスをし、アルフレッドが言いましたの。さ、行くよ、グランラン。そして、ロープを伝って崖を降りて行く。深い穴であった。ダンジョンの入口のようだ。


 あら、私にも出来るような気がするわ。ロープを体に一回まわしてと、ロープを握る。降りてみた。ロープを送る手も、壁に突っ張る足もしっくりくる。これなら行ける。地上が近付いて来ましたわ。


 下にはおサルさんたちが待っていらっしゃる。あら、なんと、封印の剣と賢者さんの杖ではございませんの。庭の茂みから見つけて来られたのですね。すると、これを持って行けってことですか。分かりました。愛しきラファエル様をお助けに行きましょう。


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