02 自認と謝罪

 で、その後のシャワーで、ホースをどうするか悩んだ結果、少し不便ではあるが、シャワーヘッドを壁に固定、というか、壁の形を一部変形させて出っ張らせて、そこにぽつぽつと穴を空け、そこからお湯を噴出させることにした。


 ホースは諸事情から土が使えない。どうも、あと一手足りない、という感じで素材として適さないのだ。保存のルカナも万能ではないってことだな。

 詳しく説明も出来るが、長いしややこしいので端折はしょった。

 簡単に言うと、柔らかい状態を固定化できないって話。


 そのかわり、正面の上部、正面の真ん中、足元からそれぞれ噴き出すようにしてみた。

 こっちにはシャワーの裏側にタンクを作り、お湯(熱い、適温、ぬるい)の3つ、水の1つの入力口を作り、入力すると一定時間出るようにした。


 仕組みはそう難しくない。


 入力先を分割して水の魔石と火の魔石(今は無い)に繋がるようにしておく。

 この分割の太さを、熱さに応じて変えておくだけだ。

 もちろん、蛇口の失敗から学んで、出力口は大きめにしておいた。


 ただ、出るお湯の量は多い。

 瞬間的にタンク内のお湯が増えるはずだ。


 そこで、タンクの7分目のあたりに土の太めの管を何本か設置し、浴槽横のタンクにつなげておく。

 こうしておけば瞬間的に増えても管より上の3割分の余裕分に余りが入り、同時にシャワー用の穴と風呂横のタンクに向かって圧力がかかり、それなりの勢いでシャワーが出る。


 という感じになっている。


 でも、これ、蒸気をカウントしてないことに気が付いたので、もう2割増やしてタンクも幅を広めに作り直しておいた。大きい分には上部を土で埋めて調整できるからな。



 ふう、いい汗かいたぜ。


 というところでそろそろ現実に向き合わないとならないかもしれない。


 火の魔石のことと、もしかしたらまだ張り付いているかもしれない誰かさんのことだな。


 うーん、どうしようと思うが、とりあえず、これからのことに火の魔石はどうしても必要だ。料理には必須だろうし、風呂にも必要。石鹸せっけんモドキを作るためについでに灰も回収したいし、そうなるとこれは家の中では出来ない。


 だが、外にはたぶん待ち伏せてるんだよなぁ。

 と思いつつ、俺は足音を殺して、とりあえず一枚の板にした玄関ドア前まで行ってみることにした。




 わたくしは目の前で扉の切れ目が無くなって行くのを見ながらも、それを叩くことを止められなかった。

 意味がないことは分かっている。この扉がただの扉じゃないということも。


 だから、これは現実逃避だった。

 つい、先ほど自分の口から出た言葉が信じられなかったからだ。


 これでは、私が嫌いだったあの者たちと同じだった。

 こうなることは分かっていたのに、高ぶった感情を抑えることが出来なかった。


 そして、唯一私の中で柱となっていた魔法への自信も、粉々に砕かれた。

 最後の一欠片ひとかけらも、目の前で板となった扉に奪われた。

 そんな魔法は物語の中でしか知らない。



 ___私は改めて、自分がワガママな小娘だと思い知らされた。

 けれど、そのことに安堵している自分もいた。


 ここに来て、ようやくわたくしは、他の何者でもない。

 貴族でもなく、敬われるものでもない、ただのわたしになれた気がした。



 でも、だからと言って、先ほどの非礼は許されないと思うのだ。

 彼と私は初対面で、彼は私のことを何も知らないのだから。



 まず、このお屋敷を見ては、あの自分で建てたとは言え、みすぼらしい掘っ立て小屋で暮らすことは出来ないと思っている。


 とすれば、どうあやまればあの男の子は許してくれるだろうか、と私は頭を抱えて悩むこととなったのだった。


 最後に謝った記憶があるのは遠い遠い幼少の頃で、それはもうとても参考になるとは思えなかった。そもそも相手は年下なのだから、通じるはずがない。

 

 私は自身の誇り高さから、これまで滅多に謝ってこなかったことを少し後悔した。


 こんなに困るなら、せめて謝り方だけでも学んでおけばよかった、と。


 私は扉にもたれかかって座り込んで膝を抱えた。

 ここで待っていれば、いつかこの扉が開くと信じて。




 勝手口も作る必要があるかもな。出口がここだけじゃ不便だし。

 そんなことを考えながら扉を元に戻して、開こうと……した。


 片方の扉が開かない。不審に思ってのぞき込めば、開かない方の扉に先ほどの女の子が体育座りしてもたれかかっていた。

 ふと、扉が開いたことに気付いたのか、彼女が顔を上げて、俺と目が合った。


 しばらく見つめ合う俺と彼女。もしかしてずっとそうやってたんだろうか。

 マジかこいつ。そう俺が思うと同時、彼女が口を開いた。


「あ、あの……」


 だが、それだけ言って、押し黙ってしまう。

 語気は扉を閉めた時よりかは柔らかい。


 というかちょっと震えてないかこれ。

 余程無視が効いたらしい。


 だが、時間は有限だ。とりあえず今日中に火の魔石は作ってしまいたい。

 そう思ってそこから離れようとすると、その子に服の裾を掴まれた。

 振り向くと、困った顔をしている。いや、困ってるのはこっちなんだけども。


 すると、ぎゅっと目を瞑ったかと思うと、勢いよく頭を下げた。

 ぼさぼさの髪が揺れて、えた臭いが……ウッ。


「さ、先ほどはごめんなさい!!」


 ええと、これは謝れて偉いね、と言ってあげればいいんだろうか。

 それとも、いいや、許さん。とそでにすべきか。


 少し迷っていると、その子が頭を下げたままぷるぷると震えていることに気が付いた。

 これはどっちだ?嵐の前の静けさなのか、平民に頭を下げるだなんて羞恥しゅうちの極み!みたいなことなのか。と思っていると、ぽたぽたと何かが地面に落ちた。


 あっ これもしかして泣かせた?

 いや、そもそも俺は恐喝きょうかつを謝られている側、のはずなんだけどなぁ。


 とはいえ、このままにしておくわけにもいかない。


「あー、いい、いい。別に怒ってないから。だけど、ちょっとやることあるから、話は後でいい?」


「ほ、本当に?あんなことを言ったのに?」


 あーあ、やっぱり泣いてるよ。

 顔を上げた彼女の顔面は中々酷いことになっていた。


 あれか?サバイバルが過酷だったんか?

 まぁ、分からなくは無いよ。俺も、ルカナが無かったらどうなっていたかと思うと恐ろしいからな。 


 あの掘っ立て小屋が彼女のものだったんだとしたら、ブチギレて当然だろうしな。

 むしろ敵対しなかったのは奇跡なまである。……一応釘刺しとくか。


「これ以上敵対しないなら、俺から言うことは何もないな。

 ところで、用事を片付けたいんだが?」


「あ……ごめんなさい」


 そう言うと、彼女はあっさりと引き下がった。

 が、俺の後をついてくるみたいだ。……まぁ邪魔されなけりゃいいや。

 そう思って見て見ぬふりをすることにした。


***

【ちょっとした補足】

この世界基準で主人公スペックで容赦無しの場合、1秒持ちません。

それを想定したヒロインちゃんの華麗な敵対回避です。

表現力無くてすみません。

※もちろんオーンにそんな気は無いですが、アナンタはそれを知りません。

※戦力差とか気になると思うので、後に設定集にまとめようと思います。

 ↑書きましたので載せます↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330661341069420/episodes/16817330662713067193

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