喜びも哀しみも刻みつけたい、深く

ひねくれすぎて、ぐるりまわって素直になったような話。

カッターを室内で取り出し、手首を切ろうとする淡々とした書き方が、主人公である立花の、自己の再確認のような儀式に感じた。

立花にしろ火鉢にしろ、どちらも自分をもっと見てほしい、かまってほしい、大事にしてほしいという感情にあふれている。

互いに互いを嫌いながら、自分を嫌いだと言っている。
そんな自分が嫌だから、火鉢さんはリスカをやめてカッターを捨てる。
立花も死ぬのも、カッターを持ち歩くのもやめるのだ。

いままで二人は、我慢するあまりに自分の心にナイフを突き立ててきた。
それが一変、いまでは相手へナイフを突きつけるように悪口を言い合っている。
言葉でも傷つくけれど、ナイフで傷つけ合うより遥かに増し。
互いにいがみ合いながら競い合うように思いを言い合って生きていくだろう。

十年後、二人は笑いあっていたら素敵だ。