吸血鬼百合短編小説としては、まさに至高の一篇
- ★★★ Excellent!!!
これほどまでに吸血鬼という設定を上手く活用した百合小説が、未だかつてあっただろうか……?
いやない。
——少なくとも、自分の知る限りでは。
まずもって、短編としての完成度が極めて高い。
これで一万字以内という短い字数だとは、にわかには信じられないくらいの密度の内容なのである。
それも——吸血鬼という、有名だけど扱いがなかなか難しそうな題材を使っているというのに、だ。
そう、いくら有名なモチーフだとはいえ、吸血鬼という架空の存在を出す以上、それについての説明が必要になってくる。
しかし、字数の限られている短編の中で、それについて細かく説明している余裕はない。
だが本作はその点、設定の提示の仕方が極めて自然かつ絶妙なので、読者は純粋にストーリーを追いかけることに集中できる。
それこそ、読み終わった後でふと、——そういや、この吸血鬼は太陽光は大丈夫なんかな……? と気になるくらいである。
読んでいる間はそんな事は気にならない。なぜならこちとら、ストーリーを追うことに夢中になっているのだから。
だって、冒頭からあんなシーン見せられたら……そりゃあもう、どっぷりと引き込まれちゃうでしょうよ。
キャラクターの生き生きとした描写により、読み始めたらすぐにメイン人物二人のパーソナリティを掴むことができる。
吸血鬼という特殊な要素はあるが、ストーリーの大筋は思春期の少女二人の関係性にフォーカスした内容になっている。
ささいなきっかけからケンカして、八つ当たり気味に無視したことを悪いと思っても、なかなか素直に謝れなくて……
かと思えば、普段は自分の仕事である髪のセットを他人にされてしまったのを見て落ち込んだり……
とても丁寧に描写される主人公の心情には、こちらもますます共感を深めていく。
ああ、なんていじらしい子なんだろうねぇ、この子は……
——なんて思いながら見てたら、いきなり出てくるタバコ。
えっ?
え、昔はよく吸ってた……? え、マジで?
意外な一面、ギャップ……ここでさらに主人公の魅力が追加される。——なんとまあ、お洒落な自傷癖をお持ちのことで……
と、そこに現れる吸血鬼、白。こちらはこれまたお洒落な手品で、吸血鬼らしいミステリアスな魅力を醸し出す。
——この二人……めっちゃええやん。
この頃には、すでにこの作品の魅力に取り憑かれている自分がいる。
と、そんなタイミングで満を辞してやってくるのが……本作の最大の見せ場——クライマックスシーンだ。
吸血対象が食するものによって、リアルタイムに吸血する血の味が変わるという——ありそうでなかった絶妙な設定により、今作のクライマックスシーンは成立している。
ごめんなさいのケーキを一緒に食べて仲直りとか、キミも可愛いところあるやん——とか。
お互いにワンワン泣いちゃって……これも青春の1ページよね——なんて思ってたら、その次よ、次。
煙草によって不味くなった血を飲んだ白が豹変してからの、一連の流れ——ここのシーンの衝撃は、それまでの可愛らしい印象からの大きなギャップにより、極めて高い威力を発揮する。
それはあるいは、吸血鬼という圧倒的な上位者の持つ本来の姿なのかもしれない——なんてことを思いつつ、読んでいる自身はすでに、そんな彼女の威容に呑まれており、ただただ主人公と同じように彼女の命令にゾクゾクと背筋を震わせるのみ……
かと思えば一転、今度は大切な存在を傷つけたことを恐れて涙を流す白……。
——その様子は、まるでごく普通の年頃の少女のようにしか見えない。
このギャップが、ある意味この作品の一番の魅力なのかもしれない。
(ここ、ぶっちゃけ最初は、——これ完全にDVパートナーから暴力受けても事後に優しくされたらコロッと許しちゃうダメ彼女の図——じゃん……? とか思ったけど)
あーら不思議、相手が吸血鬼なら、それは甘美で蠱惑的な関係に早変わり。
それに実際、やっていることはただケーキを食べているだけなので、やっぱりノーカンノーカン。
そして最後はしっかり、“二人は幸せなキスをして終了”——だから、終わり方まで文句なしで最高でした。
もうほんと、自分もこの世界で吸血鬼のパートナーになって身も心も支配されたくなっちゃうよね、これ読まされたらね。
ええ、とにかく極上の百合体験でした。
長々と書きましたが、結局のところ、言いたいことは一つだけ。
“最高の百合を、どうもありがとうございました……!!!”
……次回作にも期待しております(この作者さんの書く百合でしか摂取できない栄養がある)