第7話  強攻 (後編)

 南北からの同時攻撃ということもあって、城の北側でも戦闘が始まっていた。


 そして、北側の戦場もまた南側同様、目も当てられぬひどい有様であった。


 ありったけの鉄砲弾薬をかき集めて火線を引き、櫓からも弓手が射かけた。


 この鉄砲の射手はその多くが女であった。弾を入れ、火薬を込め、筒の先を敵に向けて、それから引き金を引く。たったこれだけで“人殺し”ができるのだ。


 刀や槍にはできない、圧倒的な時間短縮だ。僅かな訓練で誰でも人が殺せるようになる。


 しかも、相手に近付く必要もないため、気圧される度合いも減り、恐怖で相手を斬れないと言う事もない。


 “殺しの簡略化”こそ鉄砲の最大の利点と言ってもいい。


 そして、子供も戦列に加わっていた。


 城壁を登ろうとする薩摩の兵に向かって、石や木片、瓦などを投げつけたのだ。地に足を付けていればどうということはないのだが、登攀中で手がふさがっているときには、たとえ兜を被っていたとしても、十分な威力が発揮される。


 頭部に直撃し、悲鳴を上げながら落ちていった。



「いいぞ、者共! このまま敵を追い払いなさい!」



 妙林もまた櫓に登り、周囲を鼓舞しながら弓を射かけた。出家したとはいえ、元々は武家の娘である。弓や薙刀、馬の扱いなど、当然のように嗜んでいた。


 そして、こちらからも老人の部隊が討って出た。隙を見ては城門を開き、敵兵を二度三度と突き付け、そしてさっさと引き上げる。これの繰り返しだ。


 女子供では、さすがにこれはできない。引き際を心得た“生き残り”だからこそできる芸当だ。


 老兵はなお死なず、かつての戦場を思い浮かべて猛り、駆け回った。


 無論、昔のように縦横無尽に駆け巡る体力はすでに失われているが、それでも長年戦場で培ってきた“勘”というものがある。老人になるまで戦場にいたからこそ分かるそれである。


 そうこうしているうちに時は流れていき、潮が満ちてくると、北側の大地も海に沈んでいき、攻め手を展開できる空間的余裕を失っていった。


 また、南北からの挟み撃ちという作戦で攻めていたため、北側が攻撃を断念したということは、南側も被害を抑えるために引かねばならず、城方は攻め手を退けることに成功した。


 すごすごと引き下がる薩摩兵の姿を後目に、妙林は櫓上から城内に向かって叫んだ。



「皆の者! 我らの勝利ぞ!」



 大地が揺れんばかりの完成が響き渡り、下がる薩摩兵がなんとも惨めに映った。


 そんな攻防が数日にわたって続き、延べ十六回もの攻撃が加えられたが、そのことごとくが防がれた。


 守兵は女子供に老人ばかり。されど、鶴崎城の守りは想像以上に硬かったのだ。



            ~ 第八話に続く ~

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