第6話  強攻 (前編)

 程なく城攻めは開始された。


 女子供に老人ばかりの城だと聞かされていたが、島津勢は思わぬ苦戦を強いられる事となった。


 その情報自体は間違いではなかったが、その兵とも呼べぬ人々が立て籠もる鶴崎城が、尋常でない備えをしていたのだ。


 まずもって地獄を見たのは、南から攻め上がってきた白浜隊であった。


 城の南側は大野川と乙津川に挟まれた地形をしており、扇の接点のように狭いのだ。


 狭くはあるがどうにか部隊を展開し、そこから城壁に取り付こうという腹積もりであったが、初手からしくじった。


 その狭い地形のあちこちに“落とし穴”が掘られていたのだ。いきなり地中に落とされ、その底には釘を打ち付けた板が並べられており、足を釘が貫いた。


 あちこちで悲鳴が上がり、身動きが取りづらくなったところで、城壁や櫓から矢や弾が降り注いだ。次々と撃ち抜かれ、どうにか体勢を立て直そうとするも、そこへ城兵が撃って出て槍で突きかかって来たのだ。


 城壁の外側に板や畳で急ごしらえではあるが“出城”を築き、隙あらば穴に落ちた薩摩兵を次々とあの世へ送り出していった。


 決して深追いはせず、淡々と確実に相手を殺しては引いていった。


 余りの手際の良さに、南側の大将である白浜重政は驚嘆した。



「なんなのだ、こいつらは!? よぼよぼに老いさらばえた爺ではないのか!?」



 兜こそ被っているが、そこから見える顔は間違いなく老人のそれだ。


 にも拘らず、次々とこちらがやられていく。焦る重政に、出城で指揮を執る与兵衛は叫んだ。


「薩摩の大マヌケ侍共め。ワシらは“老いぼれ”ではない。亡き長増様と戦場を駆け抜けた“生き残り”なのだ! この枯れ木のような首を取れぬようでは、おぬしらも存外、へっぴり腰よのう。雑ぁ魚、雑ぁ魚!」


 その声に反応してか、あちこちから笑い声が上がる。どちらを向いても老人ばかり。だが、誰一人怯む者はいない。すでに“死”は決まっている。そう言いたげな顔ばかりだ。



「おのれ! 者共、あの爺どもをさっさとあの世へ送り出してやれ!」



 重政は配下の者に攻撃を続けるよう命じるが、またしても落とし穴に捕まった。そして、また矢弾が降り注ぐ。これの繰り返しだ。



「く、攻め口が狭すぎる。おまけに、その狭い道が落とし穴だらけとは!」



 相手方を老人と侮っていれば、それは“老いぼれ”ではなく、“古強者”ばかりであった。


 枯れるまで戦場を駆け抜けた者達であり、恐怖も躊躇もなかった。


 それどころか、若輩者と遊んでやっているという雰囲気を出す者すらいた。


 思わぬ抵抗を受け、南側の攻撃は遅々として進まなかった。



             ~ 第七話に続く ~

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