第51話 大師匠 その7
気がつけば俺はベッドの上に寝かされていた。横には、死にかけていた俺に治癒の魔法をかけてくれたであろうエイドリアンの姿があった。
「ありがとう……。予定通り助けてくれたんだな。」
「何が予定通りよ。計画では、あなたの妹ちゃんの傷を治すんじゃなかったの?」
「あぁ、ちょっとした行き違いがあってな……。」
「行き違いって、あんたお腹を刺されて死にかけてたじゃない。それに……あと1秒でも遅れていたら本気であの娘に殺されていたわ。間一髪だったんだから。」
「やっぱり……妹には手も足も出なかったよ。」
「どうせそんなことだろとは思ってたけど……。死にかけは想定外よ。本当に余裕が無かったから、肩から血を流していたあの娘の治療は出来て無いわよ。」
「いや、大丈夫だ。あれは命がどうこうとか言う傷じゃ無い。」
「なら良かったわ。治療の方はたぶんショーン様がやってくれるでしょう。今のあの子達は、魔王討伐のパーティとして行動を共にしてるみたいだから。」
「一緒って……。なんだよそれ。本当に記憶が飛んでるのか?」
「残念だけどそれは確かよ。現にあなただって……。」
確かにそうだった。風が吹いた直後……レイラは本気で俺の事を殺しに来ていた。
そして思い出されるのは、あの時のレイラの目だ。怒りに満ちた表情をしていたが、それでも瞳には涙が溢れている様に俺には見えた。
頭の記憶は消えた……。しかし身体に刻みつけた記憶は消えない……。今は、その可能性にかけるしかないのだ。
ふと見渡せば、部屋がやけに明るい。俺は日が沈むと共に気を失ったはずだったが、果たしてどれだけ眠っていたのだろうか。
「なぁエイリン……。俺はどれくらい気を失っていたんだ?」
そう言って、俺はふと気がつく。
部屋が明るいのは夜が明けていたからでは無い。この部屋の照明がまるで昼間の様に明るいのだ。それはまるで前世の日本では当たり前の様に使われていた電気照明。
「ねぇ。やっぱり驚くでしょ。私も最初は驚いたの。」
「これって、蛍光灯だよな。」
「そう。凄いでしょ。こんなのがこの世界にもあったんだよ。」
「いや、エイリンがいなきゃ、俺はまた日本に戻ってきたのかと思ったよ。」
「ここはポージーの家……っていうか研究所。あの人はこの世界に転生してからずっとこの世界で科学を再現しようとしてるから。」
「そういや彼女も転生者だったんだよな。」
「私達と違って大昔にね。彼女ったら凄いのよ、外に出てみたらもっと凄い物があるんだから。今日は夜遅いから明日になったら一緒に見て周ろうよ。」
エイドリアンはそう言ってにっこりと微笑んだ。
「………」
と、ここで俺がもう一つの違和感に気がついた。あの高飛車残念メイドだったエイドリアンの言葉遣いが、何だかとても普通だ。いや、少し可愛げすらも感じられる……。
何かが少しだけおかしい……。いや、率直に薄気味悪い……。
「なんかエイリンさぁ、少し話し方に違和感があるんだけど……。何かあった?」
そんな俺の言葉遣にエイドリアンがまた笑った。
そして、とても嬉しそうな表情で彼女がこう言ったのだ。
「あなたこそ。さっきから私のことをエイドリアンじゃなくてエイリンって呼んでるわよ。だったらあの時みたいな話し方になっちゃうわよ。ねぇクオン君……。」
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