第50話 大師匠 その6
「今日の天気が雨じゃなくて本当に良かったよ……。」
俺は身体に突き刺さった剣の痛みに耐えながら、しみじみとそう思った。
1日とはこんなにふうに終わってゆくのだな。日が沈む瞬間をこんなにまじまじと見送ったのは初めてだよ。
しかし、この風景が俺の見る人生最後の景色では無い。
「さぁ……最後の仕上げだ。」
地平線の先に、今日最後の陽の光が輝いたその瞬間。
俺は最後の力を振り絞って腰にぶら下げていた短刀を引き抜き……
その切先を妹の肩口へと突き立てた。
「頼むぜレイラ……。この痛みと、俺の腹に刺さったその剣の感触を覚えていてくれ……。」
そして……
賢者ポージーの言葉通り、忘却の風が俺達兄妹の間を優しく吹き抜けていった。
「おのれ魔王! まだそんな力が残っておったか!」
突如としてレイラの表情、そして言葉遣いが一変する。
レイラは肩に突き刺さった短刀に構う事なく、俺の身体から無理矢理に剣を引き抜いた。
しかし、俺の身体には吹き出すほどの血はもう残ってはいない。剣と言う支えを失った俺は、立っていることすら叶わずに、その場に崩れ落ちる。
俺は指先一つ動かすことも出来ずただレイラの目だけを見つめていた。
怒りに満ちたその瞳は、確かに妹の中から俺の記憶が消え去っている事を物語っていた。世界は本当に変わってしまったのだ。
「これで貴様も終わりだ。」
そう言って頭上高く掲げられたレイラの剣が、今度は俺の胸元を狙って振り下ろされようとしている。
あの娘の瞳にはまだ、さっきまでの涙が輝いていると言うのに……
しかし、これで終わりでは無い。
レイラの剣が俺の胸を貫く間際。俺の身体は突如として現れた赤く輝く魔法陣の中に沈んで行った。
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