第48話 大師匠 その4
せめて一太刀でも……。
しかし奇跡は起こらない。
いや、起こるはずが無い。奇跡とは魔王ではなく勇者にこそ与えられるものなのだ。
それに俺は最初からこうなることを薄々と分かっていた。
だって俺はもう……正直言いっぱいいっぱいなのだ。
嘘をつき続けることも、その手に剣を握ることも。何もかも。
伝説の剣士だとか、魔王だとかそう言うのも含めて。異世界だファンタジーだなんてもともとゲームや漫画の世界だけで充分だったんだよ。
柄にもなく魔王だなんて格好をつけてみても、全力で振るった剣を軽くあしらわれ……ただ妹を戸惑わせるだけだった。
トラウマなど、最初から植え付けられるわけが無かったんだ。
つまり……俺は言い訳がほしかっただけなんだよ。
何かをやりきったと言う言い訳が……。
手は全て尽くしたと言う言い訳が……。
気がつけば、レイラの姿が夕日に照らされて赤く染まっていた。俺はいったいどれほどの時間、剣を振るっていたのだろうか……。
もう数分もすれば日は西の地平線に沈む。
そして
賢者ポージーの言葉が正しければ、今日の日没と共に忘却の風が吹く。
いくら剣を振るえども敵わない相手に。俺は、最後まで抗った……。そう最後まで。
「もう、この辺りでいいだろう……」
やれることはやった……万策は尽きたのだ。
風が吹き、そしてこのまま、妹から俺の記憶が全て消えてしまうなら……。俺はもうこの世界に未練など無い……。
ちょうど都合良く妹の剣が俺に向けられていた。
「ならばいっそ……。」
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