第47話 大師匠 その3

 しかしそうは言っても、俺は魔王として妹に如何ほどのトラウマを植え付ける事が出来るだろうか。


 今まで師匠だと思っていた兄が、実は魔王だったなんて、かなり無理のある筋書きだったと俺も分かっている。 はっきり言って突っ込みどころが満載だ。


 それに、魔王なんて……正直どう演じれば良いのやら……。


 しかしもう今の俺には、この方法しか思いつかなかった……。



 自らを魔王と呼び突然喉元に剣を突きつけた俺に、妹は当然の様に戸惑っていた。


「何が魔王よ! お兄ちゃんが魔王なわけないでしょ。お兄ちゃんが教えてくれた九剣法を使えば嘘なんか直ぐにわかるんだから。」


「嘘が分かる? 笑わせるなよレイラ。 お前に俺の何が分かると言うのだ。 今さらだが、はっきり言わせてもらおう。お前が得意気に使っているその剣技――千年九剣は全て俺が適当に考えたでたらめだ。もともとそんな剣法など存在はしない。」


「いったい何を言ってるのお兄ちゃん。私はその九剣法でドラゴンまで倒したんだよ。でたらめなわけ無いじゃ無い。」


「いや、でたらめだ。にも関わらずお前はそのでたらめな剣法でドラゴンをも一刀のもとに倒した。それが問題なのだよ。」


「さっきからお兄ちゃんの言っている意味がわからないよ。でたらめで強くなったって良いでしょ。それとお兄ちゃんが魔王として私に剣を向けるのと何の関係があるの。別に戦う必要なんて無いじゃない。私はお兄ちゃんが魔王だったとしてもお兄ちゃんに剣を向けるつもりなんて無い。」


「まったく……お前は自分の置かれた立場がよくわかって無いようだ。お前がでたらめの剣法でそこまで強くなれた理由……それはおまえが神に選ばれた勇者だからだ。つまり、それがお前を殺さなくてはならない理由だ!」


 俺は再び妹の喉元を狙って、渾身の一撃を繰り出した。もちろん手加減などするつもりは毛頭無い。手加減をしてトラウマを植え付けられるほどこの妹の強さは甘っちょろくはないのだ。


 しかし妹は、その渾身の一撃をも、まるで子供の剣を受けるかのように軽々と弾き返した。


「ねぇどうして……。今のは本気で私を殺そうとしてた。」


「最初から言ってるだろ。俺は魔王で、お前を殺すと。」


 そう言いながら、俺はただひたすらに渾身の一撃を妹に対して振るい続けた。


 しかし……。英雄であり、剣聖であり、そして未来の勇者であるレイラに俺の振るう剣なんかが通用するはずがない。


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