第46話 大師匠 その2
伝説の知の賢者ポージー。ようやく探し当てた彼女に出会って、俺とエイドリアンの二人は『忘却の風』を止めることは不可能と言う事実を無惨にも突きつけられた。
「だったら神を倒せばいい――」
そんなファンタジー小説ならよくある言葉も、この賢者の前では虚しく響くだけだった。
「貴方にそれが出来るなら、私からもお願いするわ。でも……貴方の言う神はいったい何処にいるの?そしてどんな姿をしているの?知っているなら私にも教えてもらえないかしら。」
ポージーは少し意地悪にそう言った。もちろん彼女には分かっている。
「そ、それは……」
単なる思いつきのやけくその言葉に、その問いの答えなどあるはずが無い。俺はただ押し黙ることしか出来なかった。
結局、風を止める方法を知ることが出来ないまま、俺とエイドリアンは知の賢者ポージーの
彼女は俺達にある一つのヒントを教えてくれていた。
そして、俺はそれを完璧なものにする為に……妹達と別の道を歩む覚悟を決めたのだ。
今。俺はエイドリアンと共に、千年前に邪竜テトカポリカに滅ぼされ廃墟となったエルドラの都を目指している。
「なぁエイドリアン。お前の治癒魔法ってのは顔についた傷でも跡形も無く消せるか?」
「身を以て知ってるでしょ。部位が欠損しない限り大抵の傷は消せるわ。」
「念の為に確認しただけだ。でも、ってことは心配いらねぇな。その時はよろしく頼むぜ。」
「でも……あなた本気でやるつもりなの?」
「ああ。ポージーの言うことが本当なら、どうやっても忘却の風ってやつを止める事が出来ない。だから……妹が俺を覚えてくれているうちにやっておきたいんだよ。免許皆伝の試験ってやつをさ。つまりは、正真正銘これが俺の最後の修行ってやつだ。」
「あの娘はあんたとの真剣勝負なんか望んでいないわ。それって彼女を騙してまでやらなきゃいけないことなの?」
「妹はさ。ずっと俺がデタラメで書いた英雄の物語に憧れたいたんだ。」
「ええ。それはよく知っているけど……。」
「そう。全ては嘘っぱちだったけど、妹はその物語になぞらえて無茶をしてドラゴンを倒そうとしたり、幼い子供を弟子にしてみたり……。妹は、たぶんその物語の主人公になりたいんだよ。」
「そんな……今だって充分に主人公じゃないの。」
「いや、妹はまだ主人公じゃない。最後の一仕事が終わらない限り主人公にはなれない……。だってそうだろ。物語の主人公ってのは、主人公だから目的を達成するんじゃなくて、目的を達成したからこそ主人公になれるんだ。」
「だからって、わざわざあなたが魔王にならなくても。いくら私でも身体の傷は消せるけど、心の傷までは消せないのよ。」
「構わんさ。もとよりそのつもりだ。」
「って、あなたまさか?」
「そう、そのまさかだ。どんな傷だってかまやしない。刻み込んでやるんだよレイラの心の奥底にまで届くような傷を……そして痛みを。神でさえ消せないほどの記憶をさ。」
まったく、馬鹿げた話だよ。
俺自身あれだけ嫌がっていた『魔王』とやらに、今は自ら進んでなろうと言うんだから。
『知の賢者ポージー』はこう言った。
「風による記憶の書き換えは避ける事が出来ないわ。しかし、記憶を蘇らせることなら試してみる価値はある。でもね……。その為には記憶復活の為の起爆剤を準備しておく必要があるの。風が吹いても消えない様な、心の最深部に届くような
だから俺は、魔王になるのだ。そして自らが妹の前に立ちはだかる最強の敵となって妹の心に二度と消えない様なトラウマを植え付けてやるのだ。
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