第45話 大師匠 その1

 今、目の前には水平線が広がっている。ここは大陸の東の端……。俺達は、ここまでたどり着く為に、およそ二年の歳月を費やしてしまっていた。

 果てしなく幾重にも連なる山脈を超え、この大陸最大の砂漠ではキャラバン隊に同行を頼み込み、そして極東の大地では、流れる大河にその身を任せた。


 その間に起きた出来事といえば……


 なんとか国の第なに王子であったトントンこととんが、家臣に奪われた祖国を取り戻す為にレイラの弟子となった事ぐらいで、それ以外は、至っていつもの通りであった。妹のレイラは飛び跳ねるように俺達の先頭を歩き、エデンは常に文句を言い、ドーマは金勘定かねかんじょうにうるさかった。


 ただ、俺は……。妹の強さの秘密に気づいたあの日依頼、自分の師匠と言う立場にこだわるのを止めた。


 そして俺は、これから吹くとされる記憶を奪う『風』のことについて、いまだ妹達に話してはいない。


 

 

 さて。後は目の前に広がるこの海さえ渡れば、そこはこの旅路の最終目的地エルドラである。


 しかし。


 エルドラはダークエルフに似た容姿を持つエルドラ人のみが住まう言わば辺境の地。いくら極東の《みやこ》が西の王都に匹敵するほど栄えていたとしても、エルドラの都が滅んでからは、かつては交流が盛んだったとされる航路も今は廃れてしまっていた。


 つまり、俺達には直ちに海を超えエルドラへと渡る術が無い。


 冬は海が荒れ、夏からは秋にかけては巨大な嵐が数回訪れると言う海原に危険を冒してまで舟を出してくれるという奇特な人物を探し出すまでに、そこからまた半年と言う月日を費やしてしまったのである。




 エイドリアンとの約束の期限は三年。全ての記憶を消し去る風が吹く三年後までに知の賢者ポージーにたどり着く。それが彼女との別れ際に交わした唯一の約束である。


 そして俺が、ようやくポージーにたどり着いたのは……


 約束の期限があと二ヶ月後に迫った、木々の葉が赤く色づき始めた秋の終りのことであった。

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