第44話 根拠なき力 その8

「なぁ。結局そのを吹かなくする方法ってのが分からないんじゃ……考察厨としてはやっぱ手抜きだろ。」


 結局のところ世界がどうの神がどうのと言ったところで、俺達が知りたいのはそこなのだ。

 

 茶化すような俺の言葉に反応したエイドリアンは眉間にシワを寄せている。


「誰が考察厨ですって!」


 少し怒鳴る様に彼女が言った。


「そう怒るなって。お前が必死なのは俺も分かってるからさ。」


「なによ余裕ぶっちゃって。深刻なのは私よりもあなたのほうでしょ。言っとくけど、あの頭の硬い魔王達は頼りにならないからね。『千年大会』だかなんだか知らないけど、その勝者が千年ごとに形だけの魔王を演じているだけ。たとえ私達がそれから逃げたところで『風』が吹くのを避ける事は出来ないのよ。」


「それは分かってるよ……。」


「だったら自分で出来る事を探すしか無いでしょう。考察厨だって馬鹿にするけど実際あなたは何も知らなかったくせに。」


「いや、だからこそ俺達は……エルドラに向かってるんだろ。」


「それは知っているけど、どれだけ遠くへ逃げたって『風』からは逃れることは出来ないわよ。風はこの世界中に吹くんだから。」


「違う、逃げるんじゃない。俺がエルドラへ行くのは、ポージーと言う人に会うためだ。」


 それは、あの魔王達の誘いを断って山を降りる際に、幼き少女の口から聞いた言葉。


「ポージーって……。それって私達と同じことわりから外れた『知の賢者』の事? でも彼女ならもう何千年も昔にこの世界から姿を消したはずよ。」


「そんな事は知らない。でも、そこに俺達と同じ世界から転生した魔王がいるって、あの神官の女の子が教えてくれたんだよ。」


「その女の子ってもしかして……ルナ?」


「ああ。そのルナって子だ。」


 と……


 その名前を聞くなりエイドリアンは首を傾げながらブツブツと何か独り言を言い始めた。「こんなことは始めて」だとか……「何かが変わり始めているのかも」だとか……彼女得意のいわゆる考察と言うやつだ。

 しかし、こうなてしまうと、エイドリアンは人の言葉がまるっきり頭に入らなくなるのはご存知の通り。俺はしばらくの間、彼女の頭の上に『!』マークが点灯するのを待つしか無い。




 ふと目をやると、妹のレイラはいつの間にかトントンに剣の手ほどきを始めていた。ドラゴンの爪に引っ掛けられていた少年の母親の遺体は、俺が気を失っていた間にもう何処かへと埋葬されたのだろうか……。

 母親が目の前で殺されたばかりだと言うのに、彼はもうその手に剣を構えている。俺はまだ彼の身の上も何ひとつ知ら無い、知っているのは毒の姫が呼んでいたトントンと言う変わった名前。そして……母親の為にドラゴンの前に立ちはだかった彼の強い心。


 そういえば……。レイラが剣の修行を始めたのも、彼と同じくらいの歳だった。


 結局のところ俺はずっと妹を騙しているつもりで、逆に神に騙されていた……。だけど今はそんな些細な事はどうでも良い。妹がチート持ちだろうが、将来の勇者だろうが心底どうだっていい。


 そんな事よりも


 どうにかして、俺は妹の記憶を奪ってしまう『風』を止めなければならないのだ――

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