第43話 根拠無き力 その7
「神が人々の記憶を消すって?」
「ええそうよ。この世界の人々が千年の間に築き上げてきた、技術や文化、そして人々の繋がりさえも全てが一瞬にして失われるわ。」
「待てよ。それじゃぁこの世界の人々は千年前の暮らしに逆戻りじゃないか……。」
「そう言うこと。この世界は千年ごとにもう何回もそれをくりかえしているの。」
「いやいやいや……いったい何の為に。神様ってのは自分の創った世界を守る側だろ?」
「それは私にもわからない。でも想像はつくわ。たぶん神はこの世界をこれ以上進化させたくないのよ。そうじゃなきゃ千年ごとに文字や言語までまるまる新しく作り変える必要性が無いもの。」
「言語までって……。それじゃぁその風とやらが吹けば、今まで使っていた言葉が突然使えなくなるのか?」
「そう。文字が理解出来なくなれば、それまで培った知識が継承されなくなるでしょ。だから科学も発達しなければ魔法も発達しない……。そうしてこの世界は永遠に地球で言う中世の姿を留めるの。半永久的にね……。」
「なんだよ。それじゃぁまるで破壊と創造の2つを神様が一人でやってるみたいなもんじゃないか。」
「その通り、まるで静かな破壊と言っても良いわ。でも、考えてみて。この世界に破壊が訪れなかった時のことを。」
「そりゃ……。この世界でも魔法や科学がどんどん発達して、いつかは俺達が元いた地球の様になるんじゃないのか?」
「そうね。私もそう思うわ。」
「あっ、と言うことはあれだ。産業の発達がこの世界の自然を破壊してしまうだとか、大規模な戦争が起って核兵器なんかが使用されるとか……。そんな事を警戒してるんじゃないか?」
「確かにそれもあるかも知れないわ。でもね私はこう考えるの。この世界の『神』はね……たぶん人々の心から自分の存在が失われていくことを危惧しているんだと思う。あなたも知っていると思うけど……現に私達が元いた世界がそうだったから……。」
とまぁ、エイドリアンの考察は、今までこの世界について何も考えて来なかった俺をも、ある意味で充分に納得させるものだった。
ただし、彼女の考察は話半分に聞かなければならない。
なぜならエイドリアンはいわゆる俗に言うところの『
そしてこれは、あの忌まわしき邪神テトカポリカ復活の際に俺が身を以て体験したトラウマでもある。エイドリアンの考察は良い線まで行っている。ただし詰めが甘い。
世界の進化を嫌う神がいて。そして世界を破壊する役目を担っていた魔王を過去の英雄達が倒してしまったばっかりに、神自らが破壊の役目も担うことになった。その破壊が千年ごとに記憶の消去と言う形で現れる。
おそらく今回の件も概ねエイドリアンの言う通りだろう。
だが、俺にとっては一番知りたい肝心なことが何も説明されていない。
つまり俺は……。
さっきからこの言葉をいつきりだそうかと悩んでいる。
「結局のところ俺達が記憶を失わずに済ますにはどうすりゃいいのさ?」
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