第41話 根拠無き力 その5

 いつまでも要領を得ない俺にエイドリアンは少し苛立っているようだった……。


「ねぇ、あなたって妹さんの事となると本当にお馬鹿さんになるの? 何か勘違いしてるんじゃないかしら。」


「勘違いって……。エイドリアンこそ俺のことを馬鹿にしすぎだろ。流石に妹が兄より強くなるっていうのは少し抵抗はあるけどさ。でも俺だってそこでへそを曲げるほどケツの穴の小さい男じゃない。チート大いに結構。大変めでたい事じゃないか。」


「今は貴方のプライドの話なんかしてない。」


「プライドの話なんかってなんだよ。結構大事だろプライドは。」


「やっぱり馬鹿ね。あなたは何もわかろうとしていないわ。妹さんはね。『神』から力を授かったのよ。」


「なんだよ。さっきからバカバカって。ただ神さんから力をもらったってんなら、それを祝福してやろうっていってるだけだろ」


「そうじゃ無くて……。」


「はっきり言ってくれよ。妹が神さんからチートをもらった事。何か問題があるのか?」


「大ありよ。あるに決まってるじゃない。あのねぇ……貴方が読んできた漫画や小説がどんな設定だったかは知らないけど……。この世界では神から力を授かるなんて、そう滅多にある事じゃないの。って言うか千年に一人って決まってんのよ。」


「千年に一人?」


「そう。千年に一人よ。そして、そのが後の世にどう呼ばれているか知ってる?」


「いや……知らない。」


「でしょうね。知っていたらそんな悠長なこと言ってられないもの。教えてあげるわ……。よ。神から力授かった者を、この世界では勇者と呼ぶの。」


「勇者?それって……あの勇者?」


「ええ。あなたがゲームや漫画なんかで良く知っている勇者。あれと同じ……。」


――俺が知っている勇者……。それはいつも決まって物語の主人公……。


「なるほど……レイラが勇者か……。」






 しかし……実感が沸かない。

 

 『勇者』


 俺は、その言葉の意味を、上手く飲み込むことが出来なかった。


 だって漠然としすぎている。既に妹のレイラは、救国のとも、とも呼ばれていたし、そこにもう一つ《勇者》の称号が加わっただけ……。


 そう理解する事は簡単だ。


 しかし、称号にはそう呼ばれるだけの理由や根拠がある。


 英雄と言う称号は、先の対戦の折に妹が帝国軍の侵略から王国を救った為に与えられた。


 剣聖は、もちろんその比類なき剣の腕前を称えられて、いつの間にか人々から畏敬の念を込めてそう呼ばれる様になった。


 では、は?


 それが漠然としすぎている。だってレイラは、まだ勇者としての実績を何一つ成し遂げていないのだ。


 その違和感が、おそらく俺の思考を止めていた。なぜなら『勇者』だなんてかっこいいじゃないか。まるでゲームの主人公だ。


 俺の知っているゲームや漫画もそうだった。主人公は何故か何も成し遂げていないのに初めからと呼ばれていた。なぜなら主人公には実績や評価ではなく『使命』というものがあるのだ。だからこそ彼らは『勇者』足り得る。


 そして勇者の使命とは……

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