第40話 根拠無き力 その4
「でもさ、よくよく考えたらレイラの剣技がチートだったとして……。それってかなり喜ばしい事だよな。だって神様から特別に選ばれたんだろ?」
それはまるで強がりにも似た言葉だった。
いきなり妹がチートの持ち主だなんて言われて、俺は思わず気が動転してしまっていたのだ。だって、もし妹がチート持ちだと言うんなら、彼女が帝国の進行から国を救って救国の英雄なんて呼ばれるようになったのも、その比類なき剣の腕前から剣聖なんて呼ばれる様になったのも、それは全てチートのおかげって事になるだろ?
ならば、まだレイラが幼い少女だったあの日。一目でトンボの数を数える事が出来たのもチートのおかげだし。自動車よりも大きな岩を、剣の一突きで粉々に砕いてしまったのもチートのおかげ。全部全部がチートのおかげになってしまう。
つまり、俺の修行が妹を強くしたわけじゃ無い。そんな事実を今さら知らされて俺はいったいどうしたら良い?
はたして俺は今日まで、妹相手にどれだけ師匠面をしてきたのだろうか。どれだけ偉そうに理屈を並べてきたのだろうか……。
今さら「結局……修行なんていらなかったじゃん。」なんて言葉を言えるはずが無い。
結局のところ。俺の『千年九剣』が蓋を開けてみれば……全てがチートのおかげだったという、なんとも情けない顛末であるならば……。
今の俺に出来ることは、馬鹿だった自分を笑うことと、チートと言う能力を神様にもらったレイラを祝福して上げる事しかない。
だから俺の言葉はやっぱり強がりというべきなのである。
『神から与えられた力。』
俺はそれをチートと言い換える事が間違いだとは思わない。現に小説や漫画などで主人公が手にするチート能力は神から与えられる場合がほとんどだ。
しかし、言葉とは不思議なものだ。俺は、その力をチートと言い換える事で、本来の言葉に含まれた重大な事実をまるごと頭の中から消し去ってしまっていた。
振り返ってみれば、それはまるで俺の無意識が真実を知ることを拒んでいるかのようだった……。
そして……
「妹さんがチートを授かっているなんて本来ならば、喜ぶべき事よね。」
そんなエイドリアンの奥歯に物が挟まった様な言い方にも、その時の俺は、まるで真実から目を逸らせるかのようにこう答えたのだ。
「だよなぁ。俺も妹の得体のしれない強さにビビってた所もあるし、君だって覚悟なんて言葉を使うからなんか変な感じになっちゃったけどさ。なんだか気を揉んで損しちゃったよ……。」
と……。
しかしこの時。妹のチートの能力にばかり拘っていた俺は……。神から力を与えられる事の本質を、その本来の意味を、全く理解してはいなかった。
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