第36話 毒の姫 その18
「アイツが来てくれるなら最強だよ。でもさ、君があのエイドリアンと知り合いだったなんて……。」
俺は、歓喜の声を上げた
本当……世間はこんなにも狭い。文字通りエイドリアンは俺が知る中でも、最強のSレアカード的存在だ。彼女さえ来てくれれば、ボロボロの俺の身体なんかたちどころに治してもらう事ができる。
俺はこの時、心の底からエイドリアンを呼んでくれた毒の姫に感謝をした。
だが……。
そんな俺とは対象的に目の前の毒の姫は、何故かつれない表情である。それどころか俺が喜びを声や顔に表す度にその表情が見る間に曇っていった。
しまいには……吐き捨てるように「エイドリアン? あぁ……今の彼女は確かそんな名前だったわね。まぁいちいち覚える気も無いけれど。」なんて不機嫌そうに言うのだ。途端に俺の上がりきったテンションは一瞬にして冷めきってしまった。
「何それ? 彼女とは知り合いなんでしょ。」
取り敢えず俺は無難な質問でお茶を濁すことにする。
「ええ。知り合いよ。でも知ってるってだけ。正直言って私あの人が大嫌いだから本当は顔も見たく無いんだけどね。緊急事態だから仕方ないわね。」
いきなりド直球のワードを確認した。正直そこまで?思わぬ事態に俺の脳内に黄色いシグナルが点灯した。
「大嫌いって……。まぁ自分勝手で癖の強い性格ではあるけどさ……。俺は案外あれでいい奴だと思うけどね。」
言った瞬間後悔した。辺りの空気が一瞬にして凍りついたのだ。まずい……言葉の選択を誤った。こう言う場合の女への返事は全てイエス……これはエイドリアンの時に学んだ事ではなかったか。
案の定、姫の整った容姿が極限まで歪んだ。
「止めて。あの人の話を私の前でしないでくれる?心底虫酸が走るから。」
「わかったわかった。君達二人に何があったかは知らないけど……君の言う通りにする。」
「ほんと、そうしてくれると助かるわ。」
突然灯った赤信号を俺は急ブレーキで回避する。――まったく、エイドリアンはどこまで嫌われているのだろうか。彼女達の関係にいったい何があったのかはわからない。でも、俺はこれから訪れるさらなる修羅場を想像すると、正直頭が痛くなった。
だって、ほら。毒の姫が虫酸が走るほど大嫌いなエイドリアンが今からここにやってくるわけだから。
でもまぁ、今は、そこまで嫌いなエイドリアンに連絡を取ってくれた毒の姫君に感謝である。俺はそれを素直に言葉に出すとようやく姫の機嫌がもとに戻った。
「有り難く思ってよ。本当だったら転移宝玉だけここに置いて私だけ立ち去りたいぐらいなんだから。」
彼女は、少し冗談めかしてそう言った。たぶん彼女にしか出来ない方法でエイドリアンを呼び出しているのだろう。その為には彼女が持つ転移宝玉とやらが必要なのだ。
と、そこまで考えて俺は一つ大事なことを思い出した。
「えっ? 転移宝玉だって?」
「あら、貴方知ってるの? 転移宝玉の事。」
姫が少し不思議そうに言った。俺が転移宝玉を知ってる事がさも意外だと言った表情だ。
だが知ってるも何も、その転移宝玉ってやつなら俺も持ってる。砂漠を渡る前に俺はエイドリアンからその転移宝玉とやらを直接手渡されたんだから。
「何よそれ。持ってるだったら貴方が自分で呼べば良かったんじゃない。早く言ってくれなきゃ。」
「いや、呼べってどうやって? 宝玉は持ってるけど使い方とか何にも聞いてないけど。」
「もしかして聞いてないの?」
「うん。聞いてない。」
信じられないと言った表情で姫は俺の顔を見つめた。何だかちょっと受け取って何も聞かなかった俺が悪いみたいな空気が流れた様な気がしたのは、気のせいだろうか……。
しかし、つぎの瞬間。目の前の姫君はとびきりの笑顔と共にこう言ったのだ。
「でもまぁ、貴方が転移宝玉を持ってるのなら……私が
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます