第30話 毒の姫 その12
「おい!俺と一緒になって逃げてどうすんだよ!」
俺はそうツッコまずにはいられなかった。だってそうだろ。さっきの感じは……まるで姫があの場所に残ってドラゴンにとどめをさしてくれる様な雰囲気だったじゃないか……。
正直言ってこの状況……。
姫には悪いけど「もしかして、ダイナマイトを見せつければドラゴンがビビって逃げ出すとでも思っていたんじゃないだろうな……」なんて俺が誤解したとしても仕方ない。
しかし……そんな俺の心配も、直後に背後で突然起こった大きな爆発によって、単なる取り越し苦労に終わったのであった。
もちろん、それは姫の奥の手――例のダイナマイトが爆発したのだ。
鼓膜が破れるかと思う程の大きな音と、思わず身体を浮き上がらせてしまうほどの爆風が俺達を襲う。慌てて振り返って見れば爆発によって吹き飛ばされた大小様々な岩や石に混じって、確かにドラゴンの無罪に砕け散った肉片が確認出来た。
そして……「バカね。私だって逃げなきゃ爆風に巻き込まれてドラゴンと一緒に死んじゃうじゃない。」そんな姫の言葉が声になったのは、俺達が後ろを振り返って百メートルは優に超えるかという爆煙を見上げた後だった。
事は、余りにもあっけなく幕を閉じた。
少々拍子抜けしたからかもしれない。少し考えて、思わず俺は笑ってしまった……。
なんて事は無い。彼女は導火線に火をつけたダイナマイトをドラゴンの足下に転がして来ただけだったのだ。
たとえば彼女が怒り狂ったドラゴンの口の中にダイナマイトをくくりつけた矢を射るだとか……。爆風を避ける為に防御魔法使って防壁を張るとか……。そう言うちょっとファンタジックな展開は一切無しで、本当に何ら特別なテクニックを一切使わずに、ただダイナマイトを転がしただけ……。
正直、期待を裏切られた感はある。だが逆に言えば『動けないドラゴンの足下に爆弾を置く』たったそれだけの単純な事にすら気が付かなかった俺は……このファンタジー世界とやらに少し毒されてしまったのかもしれない。それほどに彼女のとった行動は至極当たり前のことだったのだ。
「まったく君にはやられやよ……。」
「どうして?貴方もアレが爆薬だって分かってたんでしょう?」
「ああ、知っていた。でも……君が余りにも堂々としていたものだから、もっと他に何かあるのかと思っちゃったんだよ。」
たとえば、いかにも異世界的な魔法とか、それに似た何かがあるって……。だがしかし、この毒の姫と言う人物は、至って現実的かつ誰もが真っ先に思いつく様な方法でそれをやってのけたのだ。
ただ……。
それでも、国一つを滅ぼすとまで言われるドラゴンを目の前にして、誰もが思いつく様な一番簡単な方法を選択するというのはなかなかの胆力が必要なはず。
しかし彼女は、「変な人ね。あの状況で爆薬を使おうと思ったらどう考えても今の方法が最善でしょ。他に何かある?」 と、それがさも当然であるかの様に言うのだ。
「いや、確かに君の言う通りだと思う。でもあの瞬間、俺はドラゴンがこっちに向ってくると思ってたし、それに爆薬があんなに凄い威力だとは知らなかったから。」
「フフフ。まぁ、あなたならそう思うかもね。でも私は貴方の一撃でアイツが動けなくなるって知ってたわ。最初から、貴方ならそう出来ると思ってたから。まぁ……ほぼほぼ作戦通りって感じよ。」
「作戦通りって……。未だに俺だって信じられないのにか?」
「ええ、そうよ。そして、その作戦はまだ進行中だわ。」
「進行中? ボスのドラゴンがやられたってのにか? もし、残りの飛竜が……ってんなら、上を見てみなよ。あいつら大将がられて、かなり腰が引けてるぜ。」
「確かに、かなり戸惑っている様子ね。でも……。もしかして、これでひとまず危機は去った……なんて思ってるんじゃ無い? だったら甘いわよ。」
「まさか。あの飛竜達がそんなに手強いって言うのか? 威勢が良かったさっきだって、なんとかなってただろう。」
「ほら、忘れてる……。て言うより、もともと見えてなかったのかしら……。貴方、ドラゴンがあの一体だけだと本気で言ってるの?」
さて、その時の俺は、姫が言うように完全に忘れきっていた。俺が最初にワイバーンの数を数えた……第一層を使って、空中のワイバーンもろとも完全に空間把握したあの時。俺は確かに2体のドラゴンの姿をこの目に焼き付けていた
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