第29話 毒の姫 その11

「それって、ダイナマイトだよな……。」


 余りにも予想外の奥の手に、俺は思わず声が出た。


「よく知ってるじゃない。」


 姫は事もなげに答えた。余りにも当然の様に言うものだから……。一瞬俺は、ダイナマイトがそこらの道具屋で普通に売っているのかと思ったぐらいだ。

 まぁ、結局のところ後にも先にも俺がダイナマイトなる代物を見たのは、その時一度きりではあったのだけど……。


 問題はそんな事では無い。


 問題は、そのダイナマイトを使って、姫はどのようにドラゴンと戦うのかと言うことだ。


 どうしても俺には、導火線に火をつけたダイナマイトを手榴弾の様にドラゴンに向かって投げる……なんて作戦しか思い浮かば無い。

 いや、って言うかそれ以外に何かある? そもそもダイナマイトは明確には武器では無いわけで……。

 例えば、このファンタジー世界なら魔法かなんかで、ダイナマイトをミサイルみたいに飛ばしてみました……とか? 


 それに、俺は、至近距離での爆風なんかも気になってるわけで、正直ちょっと不安ではあった。


 でもまぁ、姫はこのに相当な自信を持っていた様だから、何か他の方法があるに違いない。俺はそう自分に言い聞かせていたのだ……。


 しかし。当の毒姫は、別段何をするわけでもなくおもむろに地面に奥の手を置いただけ。そして……突然俺に向ってこう叫んだのだ。


「トントンを抱えて出来るだけ遠くまで逃げて!」


「トントン!?何だそりゃ。」


「ほら、そこの岩陰に隠れてる男の子よ。彼を抱えて全力でダッシュよ。」


 そう言えばいた。そんな子供が……。色々とありすぎて頭の片隅にすら置くのを忘れていたが、もともと俺は妹のレイラに言われてこの子供を助けに来たのである。


 おそらくこの場所から逃げるのは、ダイナマイトの爆風に巻き込まれ無い為だ。俺は姫に言われた通りに少年を無理やり自に小脇に抱えて、全力でその場を離れる。


 ただ……。正直、彼女だけに後を任せるのは少しだけ気が引けた。


 俺は、駆けながらチラリと後ろを振り返える。


 信頼はしているが姫が心配というのもある。だがそれにも増して、今まさに一人ドラゴンと対峙しているであろう毒の姫様が、どのようにダイナマイトを使って戦うのか興味があったのだ。


 だが……


 何かが、おかしい……


 そこにいるはずの姫の姿が何処にも見当たらないのだ。


 俺は慌てて辺りを探す「もしや、奥の手を使う前に、さっさとドラゴンにやられたのか?」そんな不安がふと脳裏をよぎった。


 反射的に俺は千年九剣の絶対空間認識を発動する。


「いた!」


 姫は倒れてなどいない。それどころか元気そうにピンピンしているではないか。俺は、ほっと胸を撫で下ろす……。


 が、しかし……。それとは別に、これはこれで由々しき問題であった。


 世間ではよく灯台下暗しとは言うけれど、彼女は俺のすぐ隣りにいたのだ。なんと彼女は奥の手を使って戦うどころか、俺と一緒になってドラゴンから逃げていたのである。

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