第15話 飛竜 その6

 多分ね。


 妹のレイラは、本当に心の底から嬉しいんだと思うよ。


 確か、初めての修行の時……。ほら、近くの池にトンボの数を数えに行った時のことだよ。あの時も道すがら、俺が倒した(と言う事にしている)ドラゴンについて質問攻めにされたんだ……。


 「空は飛ぶの?」「どれくらい大きかった?」「口から火は吐くの?」とか「放射能は?」「自衛隊は?」「オキシジェン・デストロイヤーは?」とか……あぁ、それは違うか。


 とにかく、その大きな目をランランに輝かせて、あの頃の妹はとびきり可愛いかったよ。


 でも……。あの時の俺は、その質問にどう答えたんだろうか?たぶん、ゲームや漫画の知識を使って、適当に答えたんだろうな……。そして嘘八百を並べて妹を喜ばせたんだろう。


 それからと言うもの、レイラは事あるごとにこう言ってたっけ。「次は私もお兄ちゃんと一緒にドラゴン退治したい。絶対に約束だよ。」って。


 だから、今。ドラゴンを目の前のにしてレイラは嬉しくて嬉しくて仕方ないんだ。分かるよ。よ〜く分かってる。だって俺はレイラのたった一人のお兄ちゃんなんだから。



 でもさ。


 ドラゴン退治っていうのは、襲われた村や街を救うためだったり……。はたまた、財宝を求めて潜ったダンジョンの最後のフロアに出てくる、いわばラスボス戦だったりするんだよ。それでこそ、お前が憧れた様な『伝説』となって後世に語り継がれるんだ。


 わかるだろ?ドラゴン退治は道に迷った時にやるもんじゃ無い。迷子はドラゴンを倒したりはしないの。


 だから……。頼むからそのドラゴンとやらを刺激せずにそっとしておいてくれ。


 あぁ、気持ちは分かる。痛いほど分かるよ。でも今は我慢しろ。今度お兄ちゃんが『レジェンドレアのすっごいドラゴン』見つけてきてあげるから……その時に一緒に行こう。約束だ。


「な〜んて言っても、たぶんレイラはやっちゃうんだろうな……。あぁ〜、稜線の向こうに見える大きな鳥はなんだろう……。ちょっと見慣れないなぁ……。首がちょっと長いからコンドルかな?尻尾も妙に長いから……尾長鶏おながどり………は、ちょっと無理があるか……。」


 って………もう、現実逃避は無理。ハイ。あれはどう見てもドラゴン。決して鳥なんかじゃありませんよ。


 その時、ようやくレイラが山の稜線を飛び越えてこっちへやって来た。もちろん笑ってる……。うん。満面の笑みだ。そしてあろうことかレイラは満面の笑みをたたえながら俺達のほうに一直線に向って走ってくる。


「お兄〜ちゃん。ほら、一匹連れてきたよ。一緒にドラゴンを倒そう!」


 妹は、またもやとびきりご機嫌な声でそう言った。


 ね。やっぱり、そう来ると思った。妹のやつドラゴンこっちに連れてきちゃったよ……。

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