第12話  飛竜 その3


 そう言えば……


 いったいどうしたことだろうか。俺界隈で今話題のドーマさんの姿を先ほどからいっこうに見かけないのだけど……。もしかしたら、唯一の役目をエデンに取り上げられて、傷心の果てにいじけてどっかへ隠れてしまった?


 いやいやそんなことはない。彼女は彼女で朝から得意の『身体強化魔法』を駆使して、今もレイラの後ろを一生懸命追いかけているはずである。


 ところが……


 前方の巨石が転がるガレ場。そこを元気にピョンピョンと飛び跳ねているレイラの姿は良く見えるのだが、その近くをいくら探してもドーマの姿が見当たらないのだ。


 まさか?


 良くない想像が一瞬俺の頭をよぎった。


「おい。ドーマ姿が見当たらないぞっ。もしかしてあいつ崖から落ちたんじゃ……。」


 って、冗談にもならない。マジで見当たらないんだ。


 俺は焦って四方にその視線を飛ばす。久しぶりに出てきた『千年九剣第一層 超空間認識』と言うやつである。もちろん、やったら出来る子ちゃんのレイラのレベルには及ばないが、当然この技の考案者の俺はこの超空間認識を使う事が出来る。

 ただし、弟子になって間もないドーマには、まだ先日この技を教えたばかり。魔法の力で身体能力こそレイラを凌ぐほどのレベルに達しているが……。もし未熟な空間認識の技で足場を違えたとしたら……。


 やっぱり不安だ。


 しかし、取り乱す俺に対して、ナニ食わぬ顔……いや、いったて平常運転のエデンがいた。


 そして一言。


「あぁ。エルドラの姉さんなら確かに崖の下だ。」


 ちょっと待って。やっぱり落ちたんじゃん〜!


「何平気な顔して言ってるだよ。俺達仲間だろう?助けに行くぞ!」


 俺は、もちろん慌てたね。そしてドーマが転落したのを知りながらほったらかしてる人で無しのエデンにも腹がたった。


 しかし、半笑いのエデンが俺を見つめる。


「ウケる。おっさんむっちゃ焦ってるじゃん。でも安心していいよ。姉ちゃんなら気になることがあるからって、自分で崖を下って行ったんだから。落ちたんじゃ無いて。」


 って、何だよ……。俺、本気で心配しちゃったじゃん。まぁ無事なら良かったよ……。


 いや〜。こう弟子たちの面倒を見る立場になって心から思うね。本当にホウレンソウが大事だなって……。それって、いわゆる昔ながらの一般社会人として常識なんだけど。確か上司への「報告」「連絡」「相談」って言うのかな……。まぁ、あっちの世界で社会に出たことないからうろ覚えなんだけどね。


「でも……。マジで俺、心配しちゃうからさ……。それならそうと先に報告しなさいよ。」




 だがしかしだ。ドーマはいったい何をしに崖下へ?あそこは落石とかが多くて心配だから、ちょっと俺も降りて見て来ようかしら。なんて、いつの間にか上司と言うよりは本当にお母さんじみてきた俺である。


 まぁまぁ、そう言うふうに心配が行動に移る寸前に帰って来るのが子供と言うもの。それは弟子も同じであった。


「カイル先生〜。」


 崖の下から元気そうなドーマの声が聞こえて、俺はようやく安心を得た。でも、ドーマの弾んだ声と言うのも珍しい。

 あの残念メイドのエイドリアンのせいとは言え、その身を邪神の依代よりしろとされて王都を危険にさらしたと言う事実を今もドーマは引きずっているのだ。

 常に一歩引いた立場で俺達に接してきた彼女。しかしその声が何故か明るい。


 はてしてその理由とは……。


「見て下さいコレ。崖の途中で見つけたんですけどスゴいんです。ワイバーンのきばと爪ですよ。」


 自慢の身体強化魔法で、難なく崖を駆け上って来たドーマ。彼女は開口一番にそう言った。


 その表情は、俺が見たドーマの表情の中でも過去一かこいち。さすがに美形揃いと名高い(と前の世界でも有名だった)ダークエルフ。


 こんな可愛い顔で笑うんだ……。


 いや。そんな話ではない。


「これ、冒険者ギルドに持っていったら超高額で引き取ってくれますよ。だってワイバーンなんてS級冒険者だって太刀打ち出来ないんですから。」


「って、マジ?いったいいくらで引き取ってくれるの?」


「そりゃもう、爪一本で家一軒くらいなら余裕で……」


 なんて話でもない。


 俺は、思わず隣のエデンと顔を見合わせた。だってマップをし信じるなら、今俺達が立っているこの場所こそ、そのワイバーンとやらの生息地。でもって㊟(まるちゅう)で危険地帯に指定されているんですもの。


 だから、ドーマさん。まずは世間知らずの俺達に教えてくれませんか。


「そのワイバーンってやつ。いったいどんな姿をした動物なんですか?」

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