第11話 飛竜 その2
今日も朝から弟子達が元気だ。
特に妹のレイラなんかは、例の少しイタい見た目の走り方を完全に会得した様子で、用も無いのにあちらの崖からこちらの崖へと嬉しそうにピョンピョン跳び回っていて、もう見るからに危なっかしい。
崖から一歩足を踏み外しでもしたら下は奈落である。かと言って奈落の底は常に落石の危険がつきまとう。修行に精を出すのは良いことだけど……俺には可愛い妹を崖から突き落とすつもりも、妹の頭蓋を巨大な落石で砕くつもりも無いのだ。
やる気を見せてくれるのは嬉しい限りなのだが、俺としてはやっぱり……可愛い妹に怪我だけはさせたく無いからさ。
一方で、一通り試してみてそれなりに出来る事が分れば直ぐに飽きて、他のことを始める集中力の無いやつもいる。
そう、エデン。お前のことだよ。
今のこいつは、道案内のドーマから例の旅の必需品「砂漠の回廊ルートマップ(南)」を取り上げて何やら熟読中だ。
だが、これはこれで危なっかしい。
「歩きスマホは危ないから止めなさいって、前から何度も言ってるでしょ!」なんて思わず子供を叱りつけるお母さんの気持ちが、今ならよくわかりますよ。
だからさ〜。今僕らが歩いてるのは……超高い崖っぷちの道で〜。今、君が一歩でも足を踏み外したら奈落の底に真っ逆さまなんだって!
まぁしかし。
こんな事を言っている俺もまた。実は今、真剣にあの方法について考え中でして……。一応さ、俺では無かったにしても例の気の波動を撃つことが出来たわけだから、そろそろ俺も次のステップに進もうかと考えている次第です。
まぁこの俺は、一応人間界においては最強と言っても過言ではないんだけれど、やっぱ宇宙人とか……例の魔界とかねぇ……色々いるからさ。
「だから俺。空を飛びたいの。気の力で!」
あまりにやりた過ぎて思わず声に出してしまったよ。前を歩くエデンが思わず振り向いちゃったじゃん。
仕方ない。ならばここは俺が研究中の『飛行術』なる大いなる技を語ってやるか。なんて一瞬喜んじゃったんだけど。
「ねぇカイルのおっさん。ワイバーンってどんな生き物か知ってる?」
だって。
こいつは俺の「空が飛びたい」の一言を完全に無視しやがった。全く後で教えてって言ってももう遅いぞ本当。
だけど、何故今さらワイバーン?
ゲームとかで何となく聞いたことのあるその強そうでかっこいい響き。
正直なところ俺はちょっと興味が湧いた。
「知ってるかと言われると知っているが、名前しか知らないなぁ……。見たことは無いし形も知らん。」
「ふ〜ん。分かった……。ならいいや。」
意外にあっさり引き下がるエデン。おいおい。途中で止めるなよ。言いかけたなら最後までしっかり話そうぜ。
「いや。今ね、ルートマップを見てるんだけどさぁ……。この辺りはワイバーンの数少ない生息地の一つなんだってさ。一応危険地帯のマークが付いてるんで気になっただけ。」
「なるほど、そう言う事か……。」
そう。エデンは朝からそのルートマップとやらに夢中だったのである。
だが俺はこの時、ある一つの事実に気が付いていたのだ。今朝、こいつが地図を見始めてから明らかに道に迷うことが少なくなった。
そう。まず結論から言えば、ドーマは道案内としてはまるっきりのポンコツであったのだ。
思い出して見れば、ドーマは砂漠でも「日の登る方角に進みましょう」の一点張り。とにかく大雑把。それに引き換えエデンのナビは山の位置から谷の位置まで細かな解説を交えながら一つ一つの言葉が的確だった。
俺は今日初めて適材適所と言う言葉の真の意味を知ったような気がしたよ。
まぁ、エデンは薄々それに気が付いていたに違いない。
そして、そんなエデンが続けて、追加情報。これも気が利いている。
「何でも光る物を集めたがる特性があるから、宝石や貴金属などは鞄にしまっておきましょうだってさ。」
アイアイサー!
俺は心の中でそう叫んだ。そして、これからエルドラまでの長旅の全権をこの口の減らない愛弟子に預けようと、そう誓った。
ただ敢えて一つ困ったことがあるとすれば……
この時、俺とエデンの二人はこのワイバーンと言う生き物がいったいどの様な生き物であるか全く知らないと言うことぐらいであったろうか……。
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