第二章 少年トントン

第1話 牛頭山の魔王 その1

――あの熾烈しれつを極めた邪神との闘いから既に三ヶ月――


 王都ナンバークを逃げるように後にした俺達はというと……。ただひたすらに東へと進路を取り一路いちろエルドラの地を目指していた。


 そう。それは……あの忌まわしき邪神テスカポリカをその身に封印したダークエルフ。ドーマ=エルドラドの生まれ故郷である。


 王都……それも国王が臨席する武闘大会のその現場で、あろうことか邪神の封印を解いてしまうという、国家転覆罪にも匹敵するであろう大罪を犯した俺達。(正確には大罪人エイドリアンと成り行きで行動を共にしてしまった俺達と言うべきなのだが……)


 まぁ、簡単に言うと、その時の俺達には手近な場所に、身を隠せる場所の当てがなかったのだ……。


 もともと俺と妹は、生まれながらの王国民だし、エデンの生まれ故郷の帝国も、今は王国の支配下に置かれている。「さてどうしたものか……」と頭を悩ませていた時に鶴の一声を発したのが……例の再び邪神封印の為の電子ジャー代わりにされてしまった気の毒なダークエルフの娘だったという訳だ。


「もしよろしければ、エルドラの地へ行きませんか?国は滅んでしまいましたが、今でもいくつかの部族がまとまってつつましやかに暮らしております。大したおもてなしは出来ませんが……邪神を封印する力をお持ちの貴方がたなら長老達も大歓迎だと思います。」


 まぁ、そんな言葉にホイホイと乗っかってしまった俺達も悪いのだが……。結果として今。俺達は見渡す限りの砂の海――いわゆる砂漠の真ん中を、もう半月以上もただひたすら、日の登る方角に向かって歩いているのである……。

 朝晩は極端に冷え込むが、昼間は逆に照りつける日差しを遮る物が何ひとつ無い炎天下。日除けの布で肌を覆っていなければ直ぐに肌が火傷を負ってしまう。そして何よりも砂地に足を取られて、極端に歩きづらい。もしここにエイドリアンが貸してくれた四次元ポ◯ット……もとい……収納魔法が付与された魔法のかばんが無ければ、砂漠初心者の俺達は三日も保たずに干乾びていたに違いない。


 

 さて。そんな極限にも近い状態で砂漠の旅を続けているのは、俺を含めて四人。


 共に行くのは、砂漠という厳しい環境でも泣き言一つ言わない……俺のかわいい妹であり一番弟子でもあるレイラ。そしてどんな楽な旅でも文句ばかりが先に立つ不肖ふしょうの二番弟子のエデン。そして道案内役を買って出たドーマは……いつの間にか俺の三番弟子の座に勝手に座っている。


「あれ?なんだか人数が足りないんじゃない?」そんな事を思う人いませんか?


 もちろん残念メイドのエイドリアンと気の毒な主人のショーン少年のことですよ。


 実はあの二人。砂漠の行軍初日で突然何処かへと姿を消しちゃいました。そして、俺達の手元に残こされた魔法の鞄と転移宝玉てんいほうぎょく……。おそらくあの二人はちょうど俺達がエルドラに到着した頃に、しれっとこの宝玉を頼りに古代の叡智えいち転移魔法とやらを使うつもりに違いない。


 まぁ、控え目に言って、あの二人は逃げやがったのだ。


 全く……誰のせいでこんな砂漠を歩いて渡るはめになったと思っているのやら……。



 しかしながら、そんな決死の砂漠の行軍も、始まりがあれば終わりは必ずあるもの。ちょうどそれは……大きな砂の丘を超えて……。牛の角にも似た二つのいただきを持つ不思議な形をした山が、突然俺達の視線の先に見えた時であった。


「あと三日も歩けば牛頭山ぎゅうとうざんのふもとへとたどり着きます。皆さん、あともう少し頑張りましょう!」


 邪神の一件以来、常に控え目だった……そんなドーマの声が、その時ばかりは珍しく明るく弾んでいるように聞こえた。



 

 そして三日後……。


 ドーマの言葉通り……。俺達は、ついに徒歩での砂漠の横断を成し遂げて、天高くそびえる牛頭山を目の前にして立っている。

 

 もちろんエルドラの地にまっすぐに向かうならば、この場所は単なる通過点の一つ。まだまだ行程は半分の折り返しにも到達していない。それに……俺だって馬鹿じゃない。逃避行に寄り道などはナンセンスなことぐらい良く知っている。



 しかし……俺はこの異様な形をした山を見て、ある過去の記憶を思い出していた。そして……それを確かめる為にも、俺達はどうしてもこの山を登らなくてはいけないのだ。

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