第75話 a.k.a 千年求敗 その2
そして、カイルの意識は再び肉体へと引き戻されていく。
当たり前の様に戻ってきた体中の痛みが、自分はまだ死んでいないことを実感させる。側には肩を落とし嘆き悲しむ妹の存在も感じることが出来た。
もう臨死体験は終わったのだ。カイルは再び戻ってきたのである。
しかし、それと同時にさっきまでの浮ついた思考の上に現実が重くのしかかる。
相変わらず身体は全く言う事を効かず、ズタボロのままだ。まぶた一つさえ動かす事はできない。
結局のところ、カイルの意識が戻ったところで事態は何も好転はしていない。妹にせめてもの別れの言葉すら、このままでは言えないのだ。
ならばどうして――さっきの夢に何の意味があったのだ……。
カイルはそう思わずにはいられなかった。
死んでいるなら諦められる。しかし生きていて何も出来ないなら単なる絶望を味わうだけだ……。
だが、カイルは絶望のあまり忘れていた。主人公と言うものは、絶望の淵で光を手にすると言う事を。
光……。
カイルにとっての光とはいったい何だろうか。
そして彼はもう、その光を手にしている。今はただそれに気がついていないだけなのだ。
それは今もなおレイラに握られた手から、ゆっくりとカイルの体内へと送り続けられている。そして今、カイルは自分の臍の下、いわゆる丹田に先程までは無かったちょっとした違和感を感じていた。
もちろん痛みが戻ってきたからでは無い。明らかに今までには無かった感覚。
だが、カイルはこれが何かを良く知っている。
「これは気だ……」
全ての気を出し尽くし、膨大な邪神の魔力だけが溜め込まれたはずの丹田に、僅かにだが気の力が溜っている。
言われるまでも無かった。これは妹のレイラが瀕死のカイルを思うあまり無意識にカイルに送り込んでいた気の力である。その気をカイルもまた無意識に丹田へと溜めていたのだ。
そしてカイルは――
それに気がついたと同時に、あの言葉を脳裏に浮かべていた。
『吸魔内功転換大法』
それは、今の状況を逆転させるたった一つの起死回生の技。
今のカイルは……声も出せない、身体も動かせない、目も良く見えてはいない。それでも彼はやるつもりである。残り少ない命の炎を全て使ってでも。
この妹がくれた小さな火種を使って、溜め込んだ邪神の魔力を全てを内功の力に変えて……。
そして、その後は……
「まぁ、後は妹がなんとかしてくれるだろう……。なんたってあいつは俺の弟子なんだから……」
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