第76話 a.k.a 千年求敗 その3
妹によって丹田に灯された小さな火種は、カイル……いや千年求敗の『吸魔内功転換大法』によって倍倍ゲームの様に加速度的に気の力へと変換されていった。
身動き一つ出来ない瀕死の姿が嘘の様に、カイルの体内には膨大な力の気の力がためこまれて行く。
その量たるや、もしこの世界に気の力を計測する機会があれば、そのメーターは振り切れてしまうかも知れないほどである。
みるみると上昇していくカイルの
「凄い……お兄ちゃんの身体の中で……」
レイラは、思わずそう言って、傍らでうずくまっているエデンに目を向けた。邪神を跪かす為に全ての内力を使い果たしたエデンは既に満身創痍である。だがレイラのその言葉を受けてエデンの表情に笑みが戻った。
「あぁ俺にも分かる。すげぇなぁ。凄すぎるよ、この気の量は……」
もちろん、既に気を使いこなせていたエデンにそれが分からないわけがない。
ここまで膨大な気の力を見せつけられたのだ。弟子の二人は突然カイルがムクリと起き上がって邪神に必殺の一撃を与えてくれると信じて疑わない。
だが……
爆発的にカイルの内力が高まったのは事実だが、肝心のカイルはまだぐったりと身体を横たえ気を失ったままの状態である。
そして、その間にも状況はどんどんと悪化していく。一時は霧散しかけた邪神の姿はもうほぼ元の黒き獅子の姿に戻っていた。
「剣聖!もう無理なら諦めて下さい」
何時までもカイルの側を離れないレイラの様子にエイドリアンが業を煮やす。
「でも……。気の力が凄い高まってて……」
「気の力?じゃぁ彼はまだ生きてるの?」
「はい。生きています」
「だからといって、この戦闘では使いものにならないでしょう?貴方が側にいた所で何もならないわ。だったら彼が命がけで作ってくれたこのチャンスを無駄にしないで」
エイドリアンはそう言ってレイラに発破をかけた。本来なら今はカイルの生死になどこだわっている暇は無い。今、出来ることと言えば持てる戦力の全てを邪神に充てる事しかないのだ。
だが、レイラの様子の変化が、そんなエイドリアンの気持ちを変えた。
「でも……。やっぱり、お兄ちゃんの気の力が……」
再びそうエイドリアンに訴えるレイラのその表情には、先程までの絶望の色が消えている。
その表情を見て取ったエイドリアンが、今度は言葉を変えた。
「気の力が何?私には良く分からないけど、彼は今、何かをしようとしているの?」
「はい。多分」
不確かな答え。でも、エイドリアンにとってはその答だけで充分である。彼女も闘いながらこう思っていたのだ。
――多分カイルなら死ぬ前に、必ずもう一度あの超必殺技を撃とうとするはずだ。彼にこんな献身的な死に方は似合わない。
そしてエイドリアン、はもう一度、カイルに賭けた。
この死んでいるか生きているのかも分からない異世界転生者に。
「だったら、私が3分だけ作ってあげる。その間に貴方がなんとかしなさい。多分このまま待っていたって何も変わらないわ」
「私が?」
「そう。貴方は彼の妹でしょう。多分貴方なら彼が何をしようとしているのか分かるはずよ。それを貴方が考えて。多分あいつもそれを待っているはずだわ……」
「分かりました。やって見ます。でも……エイドリアンさんは何故そんなにお兄ちゃんのことを?」
「物わかりのいい子ね。期待しているわよ剣聖ちゃん。でも彼との関係は秘密。それはこの場を生き延びて貴方のお兄ちゃんに教えてもらいなさい」
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