第74話 a.k.a 千年求敗 その1

「はぁ?吸魔内功転換法だって?」


 カイルは、今まさに、自分が口にした言葉に思わず自身を疑った。


 彼の記憶では、転生前、転生後を含めて今までそんな言葉を聞いた事も、見たことも無かった。もちろん口にしたこなどあろうはずがない。


 しかも、魔力を気の力に転換するなどとは、なんとも都合の良すぎる技である。そして、その技を使ってさえいれば……カイルは今こうして生から死への間を漂う必要も無かった。


「んな、都合のいい話しがあるかよ」


 どうせこれも、死に際に自分がでっち上げた単なるでまかせに過ぎない――。


 そう思いたいのだが……。彼は信じ難い事実に直面していた。


 それは……カイル自身が、その『吸魔内功転換法』の使い方を既に知っているということだった。


 

『吸魔内功転換大法』


 魔力は自身の外に滞在する目に見えない力のこと。魔術とはその魔力に役割を与えて行使する術のことである。

 外に滞在する魔力を自身に吸収することは容易い。しかし術者によって役割を与えられた魔力は別である。役割を与えるということは言い換えれば契約。術者によって一度結ばれた契約は簡単には解消されることはない。つまり術者以外の物にはなり得ないのである。

 従って『吸魔大法』は、他者の魔力を自身の物にする技では無い。その用法はただ単に他者の魔力を吸収するだけに留まるのである。

 では、この『吸魔大法』を行使する真の目的とは何か。それは魔力から内功への転換である。しかし転換と言っても魔力が内功へと変わるわけでは無い。ここで行うのは魔力と内功の結合である。

 次の段階で、吸収され丹田へと落とされた魔力を気と結合させることによって、その契約を強制的に解除させ、自らの体内を巡る内功の様に運用すること。これを『内功転換法』と呼ぶ。

 本来、魔力や気力を含めその他この世界に存在する力の全ては、元を正せば起源は一つ。全てが同じ物である。その力がこの世界に具現化する過程がそれぞれの差を生み出しているに過ぎないのである。

 魔力から内功への転換は、この事実の一つの証明と言えるのだ。そして、この『吸魔内功転換大法』をもって千年九剣の八つ目の階層とするべし。(本気で読まなくても良い)



 これはもちろん『吸魔内功転換法』の秘訣である。


 

 こんな良くわからない屁理屈がスラスラと頭の中に浮かぶと言う事実。そしてその技を使いこなせると言う良くわからない自信。


 さて。こうなればカイルとしても、もう腹をくくるしか無い。


 そこから、カイルが導き出した答えとは……。


「もしかして、本当に俺が千年求敗だったのか……?」


 そんな突拍子もない答えであった。


 もちろん今の彼では無い。彼の前世がと言う話だ。


 いや、彼の前世は現代日本人だ。それは間違っていない。


 ただ、可能性として有り体に言うならば、それはもう……。


 前前前世ぜんぜんぜんせ……の話しである。




 当然、現代日本人としての記憶を持つ、自称異世界転生者のカイルにとって、この答えはアリだ。


 多少強引だが、カイルが無意識のうちに前世の千年求敗の記憶を引き出していたとすれば、それはむしろ想像以上にしっくりとくる答えなのだ。


 何より、でまかせのはずだった千年九剣修行方法の全てが上手く行き過ぎたこと。それを使ったレイラが剣聖と呼ばれるほどに強くなったこと。それらが全てを説明していた。

 

 「なら、今までの葛藤は何だったんだよ。だったら、今までのハッタリや嘘は全て真実になってしまうじゃないか……」

 

 

 



 だがしかし……。


 いまさらそれが分かった所で、全てがもう手遅れなのだ。カイルがいくら千年求敗の生まれ変わりで、吸収しすぎた魔力を気の力に変える方法を知っていたとしても……。


 カイルは分かっている……。もうすぐ自分は死ぬことを。



 ただし、それもあくまで彼がであればの話しである。紆余曲折はあったものの、知っての通りの今のカイルは……。


 そう。自称『千年求敗』なのである。


 あえて格好良く言うならば『カイル=バレンティン a.k.a 千年求敗 』


 ならば、このままみすみすと彼が死んでしまうはずが無い。

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