第70話 カイル THE LAST MASTER その10

 さて、そうなると問題になってくるのが、『吸魔大法』の準備が整うまでの時間をどうやって作り出すかだ。


 妹が邪神の気を反らせない今のままでは、大法の準備をしている俺が、お地蔵さんの様に突っ立ったまま無防備な状態を邪神に晒すだけである。


 そうとなると……どう考えても俺の身体が、邪神の爪で真っ二つに切り裂かれる未来しか見えない。


 ならばどうする?


 エイドリアンとその幼き主人は、むしろ今のまま邪神の力を抑える方に気を注ぐべきだろう。邪神の力がこれ以上強くなられては元も子もない。


 エデンはどうだ?


 いや。あいつには、保険としてここぞという時の奇襲の一発を取っておいてもらいたい。


 ………。


 俺は、思いっきり自らの頬を自分の手で殴った。


 今もなお俺の頭を支配する甘ったれた思考を振り払うためだ。


 妹には怪我をさせたくない。ましてや妹の命を危険になどどうして晒す事が出来ようか……。



 俺はレイラの兄貴だ。そんな事……思って当然だろ。


 妹を助けるためだったら、いくらでも自分の身を危険晒す事が出来る。でも、ここで俺が死んでしまったら……


 俺達は全滅しか無い――



 なら……。


 もうここは『俺の妹レイラ』にどうにかしてもらうしか無いじゃないか。



 正直、妹と共に戦って俺は直ぐに気がついた。


 今までしか相手にしてこなかった彼女にはテクニックはあるがパワーが足りないんだ。


 それが分かっているなら……。もうやる事は一つだろ?



 こうなったら、今そのパワーと言うやつを、この場で妹に身につけさせるだけだ。


 そう。アレをやるんだよ。今この場所で!



 ほら見てみろ。


 レイラだってしきりに見様見真似でやろうとしているじゃないか……。俺がさっき邪神の首を落としたあの技を。


 精神統一?


 気の練り方?


 気を丹田に落とす方法?


 レイラ。お前なら、そんな手順。10段階くらいすっとばせるはずだ。


 そして俺は心を決めた。


「おいレイラ!」


「何?お兄ちゃん?」


「俺の隣へ来い。今からアレをやる!」


 ……。そんな小さな単語だが、俺達兄妹はいつしかそんなふうに呼ぶ様になっていた。


「えっ……今から!?」


 戸惑い気味の言葉とは裏腹に、妹の顔には歓喜の表情が満ち溢れていた。もちろん妹も覚えているはずだ。あの山深い村での日々を……。


 俺達にとってと言えば、もうに決まっている。


「そうだ。今ここでやるぞ!お前が大好きな修行ってやつを!」



 そして邪神よ、良く見ておくがいい。これから起こる信じられないほどの奇跡ってやつを……。

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