第10話

 君の挑戦はまだまだ続いた。何度振られてもまた懲りずにまた告白する。そんな七転び八起きなダルマのような生活を続けていた。

 

「健! 今度こそは絶対に成功させてみせるからね。楽しみにしてまっててね!」

 

「うん……頑張って……。じゃあ、僕はいつもの公園のベンチで待ってるよ。君の好きなリンゴジュースでも買って。成功したら連絡頂戴」

 

 君は何故か不機嫌そうな顔をしていた。

 

「何で振られている前提なの?」

 

 僕が言った「リンゴジュース」の言葉が引っ掛かったようだ。

 

「ごめんごめん。冗談だって……」

 

「もう! 健がいつもそんな冗談言うから、私って毎回振られてるんじゃないの?」

 

「それはないよ」

 

「根拠は?」

 

「青葉と久しぶりに話した、大雨だった中学の時をよーく思い出して、あの時なんて、僕全く関係なかったじゃん?」

 

 君は不機嫌な顔をより一層不機嫌にし、頬を膨らませていた。

 

「これから告白しに行くって言うのに、嫌な思い出を思い出させないでよ! もう! 忘れていたのに!」

 

「ごめんごめん。冗談だって……」

 

「もう、これで振られたら健のせいだからね!」

 

「分かった分かった。その時はちゃんと責任は取るから。安心してよ」

 

「絶対だよ。もし振られたら美味しいもの食べさせてよ!」

 

 僕が言った責任の取り方は、君が想像しているようなものではない。だけど、ここは本心を誤魔化しておく。

 

「うん、分かった。君が食べたいものを奢るよ」

 

「やったー! ピザでもパスタでもいいの?」


「もちろん、なんでも奢るよ」


「やったー! これで振られても安心だ」

 

 僕らの他愛ない話はこれでお終いだ。本当は君を送り出したくないけど、君の意思に背くほど僕は強情じゃない。

 

「じゃあ、健。行ってくるね!」

 

 満面の笑みで手を振りながら先へと進む君に、僕は定型分のような言葉しか言えなかった。

 

「いってらっしゃい」

 

 君を送り出した僕の顔は水たまりに寂しく映っていた。それもそうだ。君が泣いて帰って来る姿を、僕は見たくないんだ。それに、君が誰かのものになる姿はもっと見たくない。心の底では君が振られるようにと願っている。そんな醜く濁った僕の前にいつも咲いている白い花。白くて綺麗なその花は、濁った僕の心を浄化させる。僕だけのものになったらいいのにな。そう心に思わせてくれていた。

 もし、今日の告白、君が失敗したならその時は僕が……、いや、それはないか。君との今の関係を崩すのが怖い僕にそんな勇気はない。だけど、本当に君を誰にも取られたくない。本当に僕だけのものになったらいいのにな。

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君への想いに葛藤 倉木元貴 @krkmttk-0715

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