第9話

「うん! あ、でも、私先に食べちゃった……」

 

「そんなこと気にしないよ。一緒に食べよう」

 

「うん! ありがとう」

 

 僕の部屋にあるテーブルは小さく、二人分のバーガーとコーヒーを乗せれば、大方埋まってしまっていた。その分君との距離も普段よりも近かった。

 

「じゃあ、もう一回。いただきます!」

 

 君は本当にどんなご飯でもいつもおいしそうに食べる。その顔が僕は一番好きなのだ。

 

「やっぱりマフィンは美味しいね」

 

「そうだね。本当、君は昔から変わらないね」

 

「そんなことないよ。私だって変わっているよ。健みたいにね!」

 

「健みたいに」その言葉の意味が僕には理解できなかった。

 マフィンを食べ終えると、君は長いズボンを探してほしいいと言い出した。確かにそんなダサい半ズボンのまま君を帰らせるわけには行かないもんな。

 

「だけど、君に合うズボンは絶対にないから半ズボンの上に履いていけば?」

 

「う〜ん。それはモコモコしてちょっと気持ち悪いけど、仕方ないか」

 

「太くて悪かったね」

 

「そ、そんなこと言ってないじゃん」

 

「顔が全てを物語っていたよ」

 

「嘘! 私、そんなに顔に出てた?」

 

「うん。顔見たら全部分かったよ」

 

「そ、それは、健だからじゃないの?」

 

「それもあるかもしれないけど、君ってバカ正直な顔だから、嫌な時って嫌って顔するじゃん」

 

「じゃ、じゃあ、ずっと私嫌な顔してたから振られたの?」

 

「そうかもね」

 

「何でもっと早く言ってくれないの?」

 

「気付いていると思っていたから」

 

「自分の性格なのに気付くわけないじゃん! 建のバカ!」

 

 他愛もないこんな会話が、僕にとっては何よりも幸せな時間だ。何にも邪魔されたくない。ずっとこんな会話を続けていたい。僕は、君にこれからの予定を訊いた。

 

「青葉は今日は暇?」

 

「ごめん。今日はバイト入っているんだ」

 

「そうなんだ……」

 

 あからさまに落ち込んだ様子でそう言った僕を元気ずけるかのように君は言った。

 

「そんな顔しないでよ。また遊ぼ! あ、今度は健の手料理が食べたいな」

 

「それは僕の台詞だと思うんだけど……」

 

「いいじゃん。健、昔から料理うまかったし。またご飯食べさせてよ」

 

「分かった。次、君が振られた時は、居酒屋じゃなくて僕が料理を振る舞うよ」

 

「何言ってるの? 次は振られないから、それまでに食べにくるよ」

 

「うん。待ってる。僕も腕によりをかけて料理が作れるように頑張る」

 

「楽しみにしているね。じゃあ、健、今日はありがとう! バイト行ってきまーす!」

 

「いってらっしゃい」

 

 こうして君は僕の家を後にした。

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