第8話

 二十回くらい懸垂をしたら腕が限界と悲鳴をあげたので筋トレはそこで終えた。もう筋トレはできないとトイレの手洗い場で顔を洗い、拭くものを持ってきていなかったからベンチに座って時々吹く風に顔を向けて自然に顔を乾かした。そろそろいい時間だろうとスマホで時間を確認すると、時間は二十分しか経っていなかった。それから十分くらいベンチに座りながら風景に溶け込んで、僕はようやくハンバーガーショップに向かった。それも、わざとゆっくりと。

 ハンバーガーショップで、君の注文と僕の注文しハンバーガーショップを後にした。ここでようやく目標にしていた四十五分が経過した。流石に君でももうお風呂から上がって僕を待っている頃だろうと、何も確認せずに僕は自分の家に帰ったら、扉を開けたそこには下着姿の君が待ち構えていた。反射的に僕は勢いよく扉を閉めて、その扉にもたれかかった。

 

「え? ちょ、ちょっと? 何で閉めるの?」

 

「何でって、そりゃ閉めるでしょ! 青葉こそ、何でそんな格好しているの?」

 

「お風呂出たけど着る服がなかったから、探してたんだもん!」

 

 僕は後悔した。僕自身が勝手決めた四十五分を過ぎたから大丈夫だと勝手に思っていた自分を。一度ノックしてから君に確認してから部屋に入るべきだった。

 

「き、着ていた服は?」

 

「汚れちゃっっているし、着たくないんだもん!」

 

「じゃ、じゃあ、寝室のクローゼットに僕の服全部あるから適当に着れそうな服選んで着てよ」

 

「分かった。健、服借りるね」

 

「いいから、早く着て」

 

「はーい」

 

 君が着替え終わるのを僕は扉にもたれかかったまま待った。

 

「健ー。終わったよ。もう入って大丈夫だよ。冷める前に早くマフィン食べようよ」

 

「本当に着替え終わった?」

 

「本当に着替えたから。信じてよ」

 

 疑いが完全に晴れたわけではないが、僕は君の言葉を信じて中に入った。

 

「おかえり、健。早くマフィン食べよう!」

 

 そう言った君は上は服を着ていたが、下は明らかに履いていなかった。

 

「ズボン履いてないよね?」

 

「大丈夫だよ。見えてないから」

 

 そうゆう問題ではない。

 僕は君にマフィンを手渡し、クローゼットを漁った。君でも履けそうなできるだけ小さいズボンを探して。

 

「これ履いて」

 

「ありがとう。悪いね」

 

 高校の時からパジャマに使っていた半ズボンを君に渡した。君がズボンを履いている間僕はずっと背を向けて待った。

 

「ありがとう、健。大きいけど、紐で絞れば何とか捌けるよ」

 

「じゃあ、気を取り直して朝ごはんにしようか」

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