第7話
「入っている間に朝ごはんでも買ってくるよ。僕がここにいたらゆっくりお風呂に入れないだろ?」
「ううん? そんなことないよ。ていうか、そんなの私たちには今更だよ。私たち何年の付き合いだと思っているの? お風呂なんて何回も一緒に入ったじゃん」
それは十五年くらいの前の話だ。今はあの時とは状況が全く違う。今の僕には、あの時と同じような純粋な心で君を見ることができなくなっている。朝ごはんを買ってくると言ったのも、君と少し距離を置くための口実だ。
「今なんか、凄くマフィンが食べたい気分なんだよね。だから買いに行こうと思って。青葉は何が食べたい? マフィンじゃなくても何でも買いに行くよ」
僕はまた嘘を吐いた。特にマフィンが食べたい気分ではなかった。だけど、君はマフィンが好物だ。この話に乗るだろうと思っての発言だ。案の定、君は僕の話に目を輝かせた。
「そう言われたら私もマフィンの口になった。! 私、卵が入っているやつがいい!」
「分かった卵が入ったやつね。他にはない?」
「ポテト! ハッシュドポテトとコーヒーのセット!」
「だけでいい?」
「それだけあれば大丈夫だよ。そこまで食いしん坊じゃないから!」
「ごめんごめん。今日は奢るから許してよ」
「仕方ないな〜。奢ってくれるなら許してあげる」
「ありがとう。じゃあ、買ってくるからしばらく待っててね」
「いってらっしゃーい!」
君の見送りを受けて僕は家を出た。こんな毎日が続けばいいなと思いながらも、来ない未来だと心の中で否定した。
近くのハンバーガーショップまでは徒歩で五分くらい。だけど、真っ先にハンバーガーショップに寄るのではなく、まずは近くの公園に寄り道した。理由は二つある。一つは、まだ荒れている心を落ち着かせるため。もう一つは、君がお風呂から出るのを待つため。僕が帰って君が、「遅かったね」と言う、それがベストタイミング。
公園で時間を潰すのはいいけど、具体的にどれくらいの時間を過ごせばいいのか全く見当がついていなかった。三十分それとも一時間。流石に一時間は長いか。間をとって四十五分にしょう。そして次は時間を潰す方法だが、昨日の夜色々ありすぎて、僕はスマホを充電器に挿すのを忘れていて、スマホの電池は残り六パーセントだ。これなら何かを調べたり、ゲームをしたりできない。何なら頻回に時間の確認をする、それだけで電池を全て喰いそうだ。ここは公園だと言うこともあり、子供用の遊具はそれなりにあるが、二十歳を超えた大人が紛れて遊ぶわけにはいかない。幸い遊具の中に僕より背の高い鉄棒があり、得意ではないけど朝から筋トレをしている人に紛れた。
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