〇〇しないと出られない部屋

砂漠の使徒

目が覚めると……

「……きて、起きて!」


 誰かが僕の体を揺さぶっている。

 この声は、すごく聞き覚えがある。

 なんてったって、僕の愛する……。


「シャロール?」


 目を開けると、予想に違わずかわいらしい女の子の顔が目に入った。

 いつもと変わらない朝。


 朝……?


「あれ、ここは……?」


 普段なら窓の外から差し込む朝日で目が覚めるのだが、今は違う。

 そもそも、ここは家じゃない。

 どこだか知らない窓のない部屋に僕達はいた。


「わかんない。私も気づいたらここにいたの」


 彼女は困った顔で、部屋を見回した。


「そっか……」


 うーん、ここはどこなんだろう?

 あたり一面真っ白の部屋。

 そこまで広くはないから、端から端まですぐに着く。


 そして、一番目立つのは……。


「〇〇しないと出られない部屋……?」


 出入り口であろう大きな扉の上には、そんな文字が書かれた看板が掲げられていた。

 一応扉を開けようと試みるが、びくともしない。


「私達、閉じ込められちゃったの?」


 シャロールが不安そうに僕を見つめる。


「うん、そうみたいだね……」


「佐藤のスキルで出られないの?」


「あー……あれはほら、あんまり使いすぎると怒られるから、まずは正攻法を探そう?」


「そっかー……、じゃあ、その看板のとおりにすればいいってこと?」


「そう……だね、たぶん」


 〇〇しないと出られないってことは、それをすれば出られるはずだ。


 ただ、問題なのは。


「〇〇って、なんだろ? なにすればいいのかな」


 そう、それなんだよ。

 〇〇じゃなにもわからない。


「こういうのって……あれなこと多いよな……」


 僕は彼女に聞こえないように呟いた。

 しかし、彼女のネコミミにはしっかり聞こえていたようだ。


「あれって……?」


 彼女は首を傾げて僕を見上げた。

 まずい、なんて言い訳しよう。


「あ、いや、その……なんでもない!」


 とっさに言葉が出ずに、ずいぶん適当に誤魔化してしまった。

 そのせいで、余計追及される。

 彼女はグッと顔を近づけてくる。


「ねぇ、なんなの! 知ってるなら教えてよ!」


「あー……うー……」


 えーと、〇〇ってのはあれのことで……。

 でも、まだ僕たちにあれは早すぎるよ……。

 シャロールだって、まだ……。


「ははーん、わかったよ、私」


「え?」


「エッチなこと考えてるでしょ、佐藤」


「えっ!?」


「だって佐藤がそんなに顔を赤くするのってエッチなこと考えてるときでしょ?」


「うっ……!」


 シャロールはニヤニヤしている。

 ま、まさかバレてしまうなんて。

 慌ててごまかす。


「で、でもさ! まだ〇〇がなにかわからないからさ……。いろいろ試していこうよ!」


 しかし、シャロールは僕を見て意地悪な笑みを浮かべて言った。


「エッチなことを?」


「違うって! 普通のことからやろう!」


――――――――――


「はぁ……はぁ……」


「ふぅ……ふぅ……」


 僕達はすっかり疲れてしまい、二人で床に寝転がった。


 お、終わらない!

 なにをやっても開かないぞ!


「も、もうやることないな……」


 やれることはなんでもやった。

 じゃんけんやしりとりといった遊びから、腕立て伏せや腹筋などの筋トレ、手当たり次第に試してみたがダメそうだ。


「やっぱり……」


 シャロールがなにか言おうとする。

 が、一旦息継ぎのために止めた。

 僕は黙って続きを待つ。


「エッチなこと……する?」


「ぶふぉっ!?」


 すっかり忘れてたのに!

 彼女は覚えていたようだ。


「いや、それは……」


「でも、開かないならやってみるしかないじゃん」


「……そう、だけど」


 こんなわけのわからないところでするなんて嫌だ。


 いや、そうじゃなくて!

 まだ僕たちには早いよ!


 なーんて、一人で慌てていると彼女が次の言葉を続けていく。


「試しにさ……」


「うん……」


「キス……しよ?」


「キス……」


 キス、か……。

 キスくらいなら……?

 す、すごく恥ずかしいけど、まだセーフな気がする。

 僕の疲れた脳は、そんな結論を出した。


「ん……」


 シャロールが僕の方に寝返りをうった。

 僕も寝返りをうち、彼女と向き合う。

 彼女はもう目を瞑り、僕の口づけを待っている。

 間近で感じる吐息はわずかに荒く、頬もほんのりピンクに染まっていた。


「んぅ……」


 彼女の顎に手を当てると、彼女は身じろぎした。

 くすぐったかったかな。


「シャロール……」


 そっと、唇を重ねる。

 ふんわりと、彼女の唇に触れた。

 柔らかくて、どこまでも沈み込んでしまいそう。

 でも、僕はなぜかここで口を離した。

 これ以上は、またいつかがいい……気がしたから。


「佐藤……」


 シャロールは、わずかに開けた目を潤ませて切なそうな表情をしている。


「また今度……な」


「そんなぁ……」


「ここから出たら、たくさんしてあげるから」


 僕は彼女の頭を優しくなでる。

 もふもふの柔らかいネコミミが僕の手に触れ、気持ちいい。

 彼女も気持ちよさそうに微笑んでいる。


「ふふっ、これ好き」


「僕も」


 すっかりキスのことなんて忘れ、シャロールの頭をなで続ける。


「それにしても、これから……」


「ピンポーーーン!」


「え?」


 なんだ、今の音。

 クイズで正解したみたいな音が流れたが。


「……って、あれ!? 見ろよ、シャロール!」


「ん〜〜〜?」


 なんとドアが開き始めている。

 いったいなんで!?


「あっ、〇〇が消えて文字が出てきた!」


「えーと……頭ナデナデしないと出られない部屋……!?」


 なるほど、これが正解だったのか。


「なーんだ、そんな簡単なことだったんだね」


「これなら、もっと早く出れたかもなー」


 まぁ、〇〇じゃなにもわからなかったんだから仕方ない。


「佐藤はエッチなことできなくてがっかりしてる?」


「はぁ!?」


 そ、そんなこと!


「僕は……シャロールと無事に出られてほっとしてるよ」


 ただそれだけ。

 断じてがっかりなんてしていない!


「そっか……。私も!」


 シャロールも和やかに笑う。

 これで、無事に帰れるな。

 また平穏な日常が戻ってくる。


 と思っていたのに。


「じゃあ、家に帰ったら続きしよ!」


「え!? つ、続きって!?」


 まさかキスの!?

 それともその先まで!?


「それはもちろん、しりとりの!」


「あ、あー……」


 そういえば、扉が開かないから途中でやめたんだった。

 しりとりの……続きか。


「佐藤がしたいなら……それ以外もするけど……?」


「え……?」


 こうして僕達は部屋を出て、家にたどり着いた。

 そして、この後めちゃくちゃした。

 しりとりを。


(おしまい)

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〇〇しないと出られない部屋 砂漠の使徒 @461kuma

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