第3話

「……何、急に泣いてんの。

 あー、酒ぬるくなるし。とりあえず飲もうよ。

 帰りは、駅まで歩こう。夕方は風が涼しくて気持ちいいの」

 どさりと立て膝で畳に座ると、志帆はコンビニの袋からガサガサと缶ビールを取り出した。小気味良い音でタブを開け、港の女らしい勢いで缶を呷る。

「ほら、美織も。こういう甘いの飲むんだね。美織らしくて相変わらず可愛い」


 無造作に目の前に置かれたカシスオレンジの缶に手を伸ばすこともせず、美織は深く俯く。


「ってか、今更美織に謝られるとか、思ってなかった。

 卒業式の日、私の告白をあれだけあっさり断ったくせに」


「……ごめん……」

「ごめんはもういいよ。振ったこと謝られるのってあんま嬉しくないもんだよ?」

 ははっと笑い飛ばされ、美織は消え入るような声で答える。

「——だめだと思ったの。あの時は」

 その答えに、志帆はカタリとテーブルに缶を置き、無造作に頬杖をつく。

「で、昨日まで三十年近くも、電話一本もなく?

 指輪、してるね。美織はあれから普通に結婚して、幸せでラブラブで、それでたまたま昨日夫婦喧嘩したからベソかいて私に電話?」


「……違う」

「あー、まあいいや。とにかく、ごめんとか会いたかったとか、そんな目をして私に言うのはもうやめなよ。うっかりすると、私また誤解しちゃうからさ。別にいいじゃん、ずいぶん昔の話だし。さらっと水に流そうよ。私もあんまりウェットなの好きじゃないし」

「違う!」

 伏せていた瞳を不意に上げると、美織は意を決したような強い眼差しで志帆を見据えた。

「水に流したりしないで」


 その言葉に、志帆は思わず口を噤んだ。







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