第59話 ……あれ?

(……あれ、今日は急に声をかけてこないな?)


 私がそう思ったのは先週月曜日の放課後の話。


 体育倉庫での一件から、窪田君とはできるだけ関わらないよう避けて生活していたのだが、窪田君はお構いなしで私に声をかけてきていた。


 それでも私は逃げて逃げて逃げまくって、窪田君と関わらないようにしていたのだ。


 しかし、その日は急に喋りかけてこなかったのだ。


 放課後になってからそのことに気が付いた私は、何か変わった様子は無いかと窪田君の様子を確認するが、別段変わった様子は無かったし、亜蘭君と楽しそうに喋っていたので何か窪田君の身の回りで問題が起きたわけでもなさそうだった。


 まさか私が避け続けたから愛想を尽かされたのかな?


 私が窪田君を避けていたのは事実なので、愛想を尽かされても仕方がない状況ではある。


 しかし、決して無理矢理キスをされたと勘違いして窪田君に対して恐怖心が芽生えてしまったとか、嫌いになってしまったとかそういうわけではない。


 ただ純粋に窪田君と、その、キッ、キスをしてしまったのがあまりにも恥ずかしくて、顔を合わせられないのだ。


 顔を合わせた瞬間に茹蛸みたいに顔を赤くしてしまう。


 そんな姿を窪田君に見せるわけにはいかないので、私の気持ちが落ち着くまで窪田君とは距離を置くことにした。


 それから窪田君から声をかけられても返事はせずにすぐその場を離れたり、そもそもできるだけ近づかないようにしていた。


 とはいえ流石にそんな態度をずっと獲っているのも失礼だし、早く窪田君と話せるようにならないとと思っていたのだが……。


 いつまで経っても窪田君の顔を見るだけで赤面してしまい、まともに顔を合わせられるようになることはなかった。


 そんな状態では目を合わせることも、会話をすることもままならない。


 それでずっと窪田君にはそんな態度をとってしまっていたんだけど……。


 まさかこれ程急にピタリと声をかけられなくなるとは思っていなかった。


 最初は気のせいかもしれないとも思ったし、たまにはそんな日もあるよねと深く考えないようにしていたのだが、そんな日が一日、二日、三日と続き、ついには一週間もの間窪田君から声をかけられなかったのだ。


 今まで息をつく暇もない程声をかけられていたというのに、急に声をかけられなくなったということは、もう完全に愛想を尽かされてしまったということなのかもしれない。


 私は窪田君のことを嫌いになったわけではないし、このまま窪田君との関係が終わってしまうなんて絶対に嫌だ。


 そう思って私は翌週月曜日の放課後、席を立ち窪田君の席へと向かった。


「あ、あの。窪田君」

「--あっ、天川?」


 意を決して窪田君に声をかけたはいいものの、私は顔の表面温度が急上昇していることを感じていた。




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