第33話 聖女様に心溶かされていく話

 付き合うことになってから1週間に経った。今日から新学期で付き合い始めたことを言うべきか話し合った結果、晴斗と千夏には伝えることになった。


「ど、ドキドキします」


 いつも通り集合場所から七瀬と一緒に学校へ登校することになったのだが、七瀬は会ってからずっとそわそわしていた。


「言いたくなかったら言わなくてもいいんだぞ」


「そ、それはダメです。2人は友達ですから伝えたいです」


「うん、わかった」


 学校が近付くにつれて同じ制服を着ている人達が増えていく。


 2人で登校すること事態これが初めてではないのだが、付き合い始めたと思うと謎の緊張が……。


「手、繋ぎませんか? 周りの目を気にしてはいけない気がしたのでここは堂々と付き合った感を出したいです!」 


「お、おう……」


 差し出された手を優しく握ると彼女の体温が伝わってきた。


 心臓の鼓動が早くなっていくのがわかる。告白の時ぐらいドキドキしている。


 学校の門をくぐりクラス替えがあるため俺達は掲示板を見に行くことにした。


「く、クラス替え……ドキドキしますね」


「そ、そうだな……」


 七瀬と違って俺は、クラス替えのドキドキよりも周りからの視線が気になっていた。


 付き合い始めたのかなとか、手繋いでるよとか周りの声が聞こえてくるがクラス替えが気になりすぎて七瀬の耳には全く入っていなかった。


「おっ、2人ともおはよ!」


 後ろから肩を叩かれ、後ろを振り返るとそこには千夏と晴斗がいた。


「お、おはようございます! 千夏さん!」


「うん、おはよう、ことりん。もしや、春休み中に付き合い出した?」


 手を繋いでいることに気づいた千夏はニヤニヤしながら俺達に聞いてきた。


「は、はい……千夏さんには色々相談を乗ってもらいました、ありがとうございます」


「わぁ~おめでとう!」


 千夏が七瀬に抱きつき、俺と繋いでいた手が離れた。


 七瀬と千夏が先に掲示板を見に行ってしまい、俺と晴斗は少し遅れて行く。


「おめでと。どう告白したのか詳しく聞かせてもらいたいが、それは放課後だな」


「お手柔らかにな」


 晴斗と話すのをやめてクラス発表の紙を見た。自分の名前を探した後、七瀬は何組だろうかと探していると千夏といた七瀬が俺のところに来て、腕に抱きついてきた。


「同じクラスですよ。1年間、よろしくお願いします」


「ほ、ほんとだ……よろしく……」


 自分の名前があるところの下を見ていくと七瀬琴梨と書かれていた。


「千夏さんと岩田くんも一緒ですよ。去年は私だけクラスが違ったので今年は一緒で嬉しいです」


「そうだな。俺も嬉しい」


 朝、昼休み、放課後しか会えていなかったが、クラスが同じだと一緒にいられる時間が増える。


 新しい教室へ4人で行くと去年同じクラスだった男子や初めましてで名前も知らない男子が俺のところに寄ってきた。


「な、なぁ、七瀬と付き合ってるのか?」

「さっき手繋いでるところ見たって言うやつがいるんだけどどうなんだよ」

「聖女様と付き合い出したって本当か?」


 教室に入るなりクラスメイトに質問責めにあった。急に大勢で質問してきたので隣にいる七瀬は怖いと思ったのか俺の服の袖を掴んでいた。


「はいはい、質問は後ね。入り口で突っ立っていたら邪魔だからさ」


 困っているところを晴斗は助けてくれた。納得した男子は俺達が動けるよう自分の席へ戻っていく。


「ありがとな、晴斗」


「弘輝、ああいうの苦手だもんな。さっきみたいに聞かれても答えたくなかったら無視でもいいからな」


 無視する方が後々めんどくさい気がするが、まぁ、答えたくないことは答えないのが正解だな。








***







 放課後、俺は机に突っ伏していた。質問責めにあい、疲れた。


「お疲れ様です。今日は人気者でしたね」


 七瀬は近くにあったイスを借りて座った。


「人気者ねぇ……七瀬は何か聞かれたか?」


「そうですね、付き合い始めたかと聞かれてはいと答えたぐらいです。他の質問は答えてません。2人だけの秘密にしたかったので」


「そ、そうか……」


 俺も彼女と同じだ。付き合い始めたかと聞かれてうんと答えただけで他の質問は答えなかった。

 

 答えなかった理由は答える必要がないと思ったからだ。


「立川くん、1ついいですか?」


「ん? なんだ?」


「つ、付き合い始めたんですし、下の名前で呼び合いませんか?」


「……そ、そうだな。じゃあ、これからは琴梨で」


「はい、弘輝くん」


 名前を呼び合うと気恥ずかしくなりお互い顔を赤くした。


 名前を呼ぶ度にこれだと大変だな。慣れるまではまだ時間がかかる……。


「弘輝くん、少しの間だけ目をつむってもらえますか?」


「わかった。こうか……?」


 目を閉じ、彼女からはいと返事が返ってくると唇に柔らかい感触がした。


(き、キス……されたのか?)


「もういいですよ」

 

 彼女がそう言ったので目を開けた。


「不意打ちはズルい……」


「ふふっ、すみません。では、2回目は言ってからやりましょう」


 誰かが来るんじゃないかとそわそわしながらも俺と琴梨はもう一度キスをした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【完結】聖女様に心溶かされていく話 柊なのは @aoihoshi310

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ