第32話 これからも君の側で

 今が桜の見頃ですとテレビで言われ始めた頃。俺と七瀬は電車で移動し、少し歩いたところにある公園でお花見をすることになった。


「今日は1日晴れになるってさ。七瀬さんとお花見するんでしょ? 良かったね」


 テレビを見て彼女はそう呟いた。


「そうですね……ところで朝から何しに来たんですか?」


 出掛ける前に急に家に来たのはなこさんだ。急用だとか言って俺と話したいらしく家に入れたが、用件は聞いていない。


 家を出るまで後30分。ちゃんと話を聞いてあげたいが時間があまりない。


「弘輝くん、大発表です!」


「はい、何ですか?」


 会ってからニヤニヤとしていたのでその大発表の内容は何となく察している。いいことがあったのだろうと。


「優くんと付き合えることになりました」


「おぉ、おめでとうございます」


 拍手すると彼女はまた嬉しそうな表情をした。


 何度か相談に乗っていたが、本当に良かった。相談に乗ったと言っても俺は恋愛経験があるわけでもないので役にたったのかはわからないが……。


「次は弘輝くんの番だね。恋愛相談乗るよ」


「俺の番? どういうことですか?」


 そう尋ねるとなこさんは、ニヤニヤしながらこちらを見てきた。


「七瀬さんのこと好きなんでしょ?」


 俺が七瀬のことを好きなんだろうか。確かに彼女のことは好きだ。けど、これは友達として好きなだけだと俺は思っている。


「…………わからないんです。彼女の側にいたいと思うんですけどこれが恋なのかがわかりません」


 伝えたいことがあるのに言葉にならないのはおそらく自分の気持ちがわからないから。


「ん~、1つ質問するけど弘輝くんは七瀬ちゃんが他の男子と付き合い出すことになったらどう思う? 側にいられないかもよ」


(七瀬が他の男子と……)


 七瀬と俺以外の男子が楽しそうに話しているのを想像するとモヤッとした。

 

 確かに七瀬に恋人ができれば側にいることはできないだろう。その彼氏が側にいるのだから。


「嫌ですね……」


「ふ~ん、それは恋だよ、弘輝くん」


「えっ?」


「モヤッとしたでしょ? なら恋だよ」


(俺は、七瀬のことを友達としてじゃなく好きなんだ……)


 けど、好きと気持ちを伝えてしまったら今の関係が壊れそうで嫌だ。


 七瀬とはこのままで……。いや、気持ちを伝えずに後悔する方がもっとダメな気がする。なこさんが言っていたもしもの話が現実になる可能性がある。


「先輩、ありがとうございます」


「こちらこそありがとう。七瀬さんとお花見楽しんでおいで」







***







 七瀬とは現地集合となった。先に着いた俺は、場所取りをし、レジャーシートを敷いておいた。


 お弁当は七瀬が任せてくださいと言ったので彼女が持ってきてくれることになっている。


 お弁当を作ってくれる変わりに俺はお菓子やジュースを買っておいた。


 いつ来るだろうとそわそわしながら待っていると急に視界が真っ暗になった。


「誰だと思いますか?」


 聞き馴染みのある声に俺はすぐにわかった。


(こんな登場の仕方で来るとは聞いていないぞ)


「七瀬だろ?」


「ふふっ、当たりです」


 視界が明るくなり後ろから前に回ってきた七瀬と目が合った。


 好きだと自覚したからか七瀬のことを見ると心臓がうるさいほどドキドキする。


 この前会った時とは違い今日の彼女は白のティーシャツに下は青色のロングスカートだ。今日はみつあみなどしておらず髪をおろしていた。


「場所取りありがとうございます。お弁当作ってきました」


「ありがとう。俺は飲み物とお菓子を買ってきた」


 カバンの中からペットボトル2本とお菓子を出すと七瀬がハッとして俺のところへ近づいてきた。


「美味しそうです」


「炭酸とりんごジュースあるけどどっちがいい?」


 ペットボトルを2つ見せどちらがいいか選ばせた。


「ではこちらで」


 りんごジュースの方を手に取り炭酸は俺が飲むことにした。


「桜満開ですね。これが立川くんが言っていた見せたかったものですか?」


「いや、それはもう少し先。あの場所は人が多いから食べた後に行こう」


「わかりました。では、食べましょうか」


「「いただきます」」


 七瀬が作ってきてくれたお弁当はとても美味しかった。


 自分が好きな食べ物がたくさん入っていていつの間にか好きなものを把握されているのかと思ってしまった。


「ごちそうさま。美味しかった」


「良かったです」


 お弁当を食べた後は少しお菓子を食べて休憩してから移動することにした。


 少し歩き、ある桜の木の前で俺は立ち止まった。すると隣から綺麗ですと小さく声が聞こえた。


「ここが見せたかった場所。他のところと違って綺麗だろ」


「……はい、とても綺麗です」


 ここ一帯は、先ほどいた場所と違ってとても綺麗な桜が咲いている。俺は毎年友達や家族とこの桜を見に来ていた。


 桜を見た後、少し歩くことにした。いつ言おうかと考え、今がいいのではないかと思い口を開いた。


「七瀬、少し話を聞いてもらえないか?」


「……はい、聞きますよ」


 彼女の方を向くと七瀬は桜から目を離し、俺のことを見た。


「俺は、七瀬のことが好きだ。ずっと七瀬の側にいたいと思う」


 自分の気持ちに気付いて言わないと後悔すると思った。関係が変わるとかそんなことを考えていたら前に進まない。


 彼女といたい、そう思うなら自分の気持ちを素直に伝えるべきだと思った。


「…………私も立川くんのことが好きです。これからも側にいてください。私、立川くんがいないとダメになりそうです」


 彼女はそう言って俺の手を握った。俺は頷き、彼女の手を握り返す。


「ダメになるのはこっちだよ」


 これからも君の側にいたい。守ってやりたい。そう言う気持ちが強くなる。


「ふふっ、言ったからにはずっと側にいてくださいね」


「あぁ、もちろんだよ」



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