ストーリー:6 初配信を終えて


「へへっ、今日は楽しかった! とりあえず言われたゲームって奴はナツに聞いてやってみっから、その時は一緒に楽しもうな! みんなありがとう!! じゃーなー!! ばいばーい!」


 最後の挨拶をして、ミオの配信が終了する。

 これで、かまいたちのジロウから続いたAYAKASHI本舗の初配信リレーが完了した。


「んっ、んんー! っしゃあ! 終わったぁ!!」


 合計2時間に渡る視聴者たちとの第一種接近遭遇。


「ふぃー、ようやっと終わったかぁ」

「お疲れ様です」

「ほっほっほ。これは中々……」

「っだぁー! 楽しかったけどきつかったー!」


 実際に矢面に立った者も、それを見守っていた者も。


「みんな、お疲れ! 思ってたよりだいぶんいい初配信になったと思う」


 それらを影ながら支え続けていた者も。


「これで、AYAKASHI本舗……本格始動だ!」


 全員が色濃く疲労を浮かべていながらも、その表情にはある種の達成感を宿していた。



「ミオさんミオさん、ミオさんの配信、すっごく人が来てましたねっ」

「へへっ。やっぱアタシの持ってる魅力がそうさせちまったんじゃねぇかなぁ?」


 疲れが体に現れているためか畳の上で四つん這いになっているワビスケからの言葉に、ナツから麦茶を受け取ったミオが、あぐらをどっかり掻いて得意気に胸を張る。


「最後だったから一番人が集まってただけじゃねーの?」

「んだとぉ!?」


 そこにすかさずジロウからの茶々が入れば、上機嫌から一変、挑戦的な目をミオは向ける。

 カラン、と。グラスの中の氷が鳴った。



「ほっほっほ。ならばジロウが、最初に場を温めてくれたことに感謝せねばなぁ」

「ウッ……」


 ミオとジロウの睨みあいで場が固まるより先に、お猪口で焼酎を楽しむオキナが流れをあっさりと変えた。

 投げられた、場を温めるという言葉に含まれる意味を、この場の誰もがすぐに理解して。


「あぁ、そういやそうだったな。あんだけビクビクやってて、可愛い~って言われてたし?」

「う、うるせぇ! 勝手も何もわかんねぇところから始めたんだからしかたねぇだろ!」

「でもでも、ジロウさんが最初にやってくれて、だからボクたちは安心して挑戦できたのは間違いないです。ありがとうございますっ」

「そうじゃな。おヌシがあれだけ醜態を晒してくれたからこそ、後に続くワシらが伸びやかに事に当たることができたのじゃ。さすがはかまいたち。恐れず人に向かう妖じゃて」

「確かに、あれについちゃ感謝しなきゃだな。あ・り・が・と・な! ジロウさん? へへっ」

「んぐあーーー!!」


 からかうつもりがからかわれ、ジロウが畳の上をビタンビタンと跳ねまわる。

 毛が飛ぶ毛が飛ぶなんて言いながら、みんなでカラカラと笑っていた。



      ※      ※      ※



「ハハッ。みんな、テンションが高いなぁ」


 それを少し離れたところで見ていたナツは、いつもより昂揚した様子の仲間たちを、物珍しげに見つめていた。


(でも、これが俺の見たかった景色だ)


 自分たちのしたことについて、あーでもないこーでもないと話し合い、笑ったり、怒ったりし合っている姿。

 それはナツが本で読んだ、昔の生き生きとした妖怪たちの姿そのモノだった。


“妖怪たちの元気な姿が見たい。”


 その願いは確かに今、叶ったかのように見えた。



「……まだまだ」


 それでも、ナツの心に燃える何かは治まらない。

 本当の望みを叶えるには、まだ足りない。


(ジロウたちだけじゃない。五樹村の妖怪たちみんなに、もっともっと元気になってもらうんだろう?)


 ナツには、そうしなければならない理由があった。

 だからまだ、こんなところで満足してはいられなかった。



「みんな、改めてお疲れ様!」


 意識してお腹から声を出し、注目を集める。


「なんだぁ、改まって」


 そんなナツの示したほんの少しの違いに、ジロウは当然のように気がついて。

 彼の反応に追従するように、他の三人もナツに向き合う。


 ナツの顔が、緊張でわずかにこわばる。



「えっと、みんなに聞きたいんだけどさ……」


 それは恐る恐るといった様子でかけられる、問い。


「今日の配信、楽しかった?」

「「楽しかった!」……ですっ!」

 

 即座に帰ってきたのは、まだ半人前に分類される妖怪たちの元気な声。 


「ナツ、ゲームだ! アタシゲームしたい! もともと興味あったけど、ゲームってのやれば日ノ本全国の奴らと勝負できるんだろ? だったらアタシ、ゲームでそいつらぶちのめしたい!」

「ボクは、ボクはもっとみんなとお話したり……歌を、歌ってみたいです。声が素敵だって、ボクの言葉を聴いてくれた人が、そう言ってくれたからっ!」


 ミオとワビスケ。

 二人の瞳はどちらもキラキラと輝いていて、やる気と喜びがこれでもかと満ちている。


 ミオの配信は一番最後の大トリだったのもあり、場がある程度温まった状態から始まった。

 事前に公表していた2Dの評判も良かったためか、リレー配信では一番の盛り上がりを見せることとなり、彼女の物怖じしないはすっぱな物言いと見た目のギャップもあり、最初の配信にして多くのファンを得たように見えた。


 ワビスケの配信は、他の配信とはどこか雰囲気を異にしていた。

 終始彼のことを気遣う人や、場の品位を維持しようと動く人など、どことなく空気感を周りが作ってくれているような、言葉を変えると囲いが発生しているような雰囲気があった。

 もっともそれは彼にとって好都合だったようで、ワビスケは終始穏やかに、楽しくお兄さん、お姉さんと呼ぶことになった視聴者たちと話をすることができた。


 どちらも、自分たちなりに手応えを得られたとわかる、そんな内容だった。



「うむ、うむ」


 そんな二人のすぐ後ろで、オキナも静かに同意を示す頷きを返す。


「人と酒を酌み交わすというのは、果たして何年ぶりのことじゃったろうな。中々に楽しい経験じゃった。一度で終わるのをもったいないと感じるほどに、の」


 オキナは動画配信開始早々、乾杯して酒を飲んだ。

 だがそこは、百戦錬磨の視聴者たち。そのようなパフォーマンスに対しても慣れたもので、ツッコミを入れたり一緒に飲んだりと、様々な反応を返してくれた。

 それがオキナのツボに入ったのだろう、そこからは喋る喋る、楽しませる。

 持ち前の好々爺然としたキャラクターを前面に押し出し、大いに会話を盛り上げたのだ。


「また飲もう、と。コメントをいただいてしもうたからの。応えてやらねば、妖怪の名折れじゃ」


 なんて、心底愉快そうに笑うのだ。



「………」


 ここまで3人から好意的な感想を貰って、ナツは自然と最後の一人に視線を向ける。

 だが、その目を向けられた当の本人は、小さな肉球のついた手を組み、悩まし気に体をくねらせていた。


「楽しかったか、ってーと、どーなんだろうなぁ……」


 ジロウは、トップバッターとして配信に臨んだ。

 それゆえに手探り感が強く、後に倣った仲間たちに比べて苦戦することになった。


 だが最初の配信で彼がやらかしたさまざまな失態が、その後の仲間たちの配信に対して大いに助けとなったことを、ナツは知っている。

 そして“かまいたちのジロウ”という妖怪が、そんな立場に甘んじることを、割とよしとしてくれる存在だということも、ナツは知っていた。


「じゃあ、面白かった? それとも、興味深かった?」

「ああ、それだな。それならわかるぜ」


 興味深い。

 その言葉に頷いて、ジロウがニヤリと笑う。


「なんだろうな、俺は生まれてこの方あんまりやってこなかったんだけどよ。これって、あれだろ?」

「あれって?」

「“人間を、化かす”ってことだよな?」

「!?」


 不意に投げられた彼の言葉に、妖怪たちの目の色が、確かに変わった。



「本当の姿は見せないで、見せたい姿で人の前に姿を晒し、言葉巧みに操って、こっちの思い通りの結果を引き出す……どうよ?」

「……ホントだ」


 言われて、ナツは目から鱗がいくつも落ちたかのような気がした。


「俺、配信したらみんなのことをいっぱい知ってもらえるだろうってばっかり考えてた」

「ほっほっほ、これは、なるほど。見落としておったのう」


 あのオキナですら、目を見開いて歯を出すほどに笑っていた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。えーっと、アタシはアタシだけど、あいつらが見てるアタシはアタシじゃなくて……だからアタシがアタシらしくやるとアタシがアタシを化かす? ん?」

「えっと、えっと。ボクたちが画面を通して違う姿を見せているのが、先人たちがやっていた、化けて出る、と一緒だって考えで……あ、ホントだ!」

「え、どういうことだワビスケ。アタシにも教えてくれ! アタシがアタシでわけわかんなくなってきた!!」


 さっきまでとは違う、何か胸の内から焦りにも似た興奮が沸き上がってきている。


 それは妖怪たちの多くが本質的に持っている気質。

 人と異なる世界の住人でありながら、人と交わる、そのための最もポピュラーな手段として好まれていた、人を化かすという行為。


 それら、かつては盛んであったが今や廃れていくだけだった振る舞いが。


「アタシら、人間を化かしてる?!」

「ですです!」

「だろ! だろ!」

「ほっほっほ」


 今現在。令和というこの時代に。

 それが確かに復活したのだと、そう彼らが確信して。



「おいおいナツよぉ……」

「ナツさん!」

「ナツや」

「ナツ! ナツ!!」


「!」


 思わぬ発見が、大きな変化をもたらした。


「ナツ! 次! 次の配信はいつやる!?」

「ナツさん! ボク、すぐに次の動画撮りたいです!」


 さっきの時点で高かったモチベーションが、今や壁天井をぶち抜いて、五樹の谷に響き渡る。


「まっ、俺たちも、まだまだ付き合ってやっていいぜ?」

「うむ」


 若い妖怪も、老いた妖怪も。

 この場の全員が、強く強く次を望んでいた。



「……OK、任された。次の配信スケジュール、速攻で用意する!!」

「「「そうこなくっちゃ!」」」

「ほっほっほ」


 AYAKASHI本舗の初配信。

 それは、確かな一歩と共に、次の大きな一歩へと繋がる経験となったのである。


 さてさて、令和の化け騒ぎ。始まり始まり。




ーーーーーーーーーーーーーーー


ここまで読んで下さりありがとうございます。

このお話を投稿する8月8日現在まで毎日投稿していましたが、法事などで忙しくなっていまして、ここを区切りにしばらく投稿をおやすみしようと思います。

忙しいのが落ち着いたらまた投稿再開したいと思っています。というか、投稿します!! 妖怪もこの村も好きなので! それにまだ、作中にしれっと登場してる「あの人」の配信書けてないし!!


ですので、投稿お休みしている期間中でも☆レビューや応援、フォローなどをぜひぜひお願いします!

より多くの方に読んで貰うことに繋がるので、ご協力いただけると本当に本当に嬉しいです!!

あなたの応援が妖怪のV箱、AYAKASHI本舗を育てます!!


配信パートの「コメント参加希望」や「配信内容リクエスト」もまだまだ募集していますので、お気軽にご参加ください!

https://kakuyomu.jp/users/natsumeya/news/16817330661195951791

 詳しくは上記の近況ノートをチェック!


それではまた、次の投稿で!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【配信】AYAKASHI本舗をヨロシク!【妖怪】~故郷の妖怪たちのために、新しい箱作ってバズらせる!!~ 夏目八尋 @natsumeya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ