第2話 ボーイ・ミーツ・リトルガール

「さて、どうしたものかな」


 あれから1週間後がたった。

 パーティーを抜けたその日、先生には、悠我達からの伝言を伝えておいた。感謝の言葉を貰えたものの、俺の気が晴れることは決して無い。


 一応気になって悠我達の同行を探ろうとしたところ、案の定、Dtuberになっていた。伸びは、そこそこ。なんだかんだでまだまだブルーオーシャンなダンジョン配信界隈。ただの思いつきではないとはいえ、高校中退宣言をした集団にしては、希望が見えるのかな、と言ったところか。


 ちなみに俺はあの日以来ダンジョンには潜っていない。大人しく勉強に専念することにしている。


 未練がないわけではない。だが物理的に無理だった。そもそもダンジョンにおいてパーティーを結成するというのは、必須条件なのだ。

 モンスターには、拳に銃、剣といったスキル以外の攻撃は一切効かない。でなければ、とっくに軍隊が、今の状況を収めているだろう。

 しかしスキルは、万能じゃない。そして無限に習得できるものでもない。バトルもののマンガのように、ひとつの得意分野があって、それを応用するぐらいが限度。

 だから、それぞれの得意不得意を補うと共に、群れで出てくるモンスターなどの物量に押されないようにする、それがパーティーを組む意義。

 1人でダンジョンに潜るのは自殺行為に他ならなかった。


 だが別のパーティーを組む気にもなれない。

 別に彼ら以外に仲の良い友達がいなかったわけじゃない。他の同級生にもダンジョンに潜る人間はザラといる。


 でも結局あいつらといる時間が1番楽しかったんだよなぁ。

 あれほど酷いことを言われたのに、まだ未練がましく話している。

 結局のところ、俺は口ではなんと言ってもそう簡単には割り切れない人間らしかった。


「馬鹿らしい……帰るか」


 放課後のチャイムがなった。

 寮に帰るか。俺はさっさと身支度を整えた。


◆◇◆


 俺は現在学生寮に住んでいる。

 別に不思議なことじゃない。ごく自然なことだ。

 ダンジョンによる世界崩壊後、侵食が進み、やがて地表すらも異世界というべき世界に変わりつつある。

 学校は今やモン・サン=ミシェルのような状況になっていると言えばいいのだろうか。

 ひとつの細い道によってかろうじて外界と繋がっていて、あとは湿地帯が広がっているありさま。

 バカでかいヤスデにバカでかいトンボ。オオサンショウオとは比較にならないほど巨大な両生類と、巨大なシダ植物の森。

 具体的に言えば、アースロプレウラとメガネウラ、エリオプスが存在している。

 わかる人はもう理解できただろう。

 俺達の学校は通称ペンシルベニア高校。およそ3億年前、石炭機の地球がそのままに再現されている、一年中夏真っ盛りの危険な熱帯地域なのだ。


 何がどうしてこうなっているかは分からない。だが、そのおかげか、ここにはモンスターは入ってこなかった。

 孤児は当たり前だが、俺達も親から離れて生活している。要は疎開ということだ。


 だが、こんな生活じゃろくに物資は届かない。だから、1週間に一度、俺たち学生は外界へ出ることを許されている。無論、外に出ても、生きて帰って来られる戦闘力をもった人だけというオチなのだが。


 俺はそのために罠師になった。まあ、無論ダンジョン攻略もあるわけだが、あくまでついでだったのだ。何せ、学校からでるご飯は質素そのもの。戦時中の子供みたいな暮らしを強制されては、動かざる追えなかった。


 ちなみにダンジョンは外界にある。俺は買い物ついでにダンジョンに潜っていたわけで、悠我達も最初はそんな感じだったのだ。だから俺はてっきり、最初は変な気は起こすはずないと思ってたんだけどな。


 今日は、その日。外出許可日だった。だから午前中に授業はお終い。急いで準備をしなければならない。

 寮に帰ると早速身支度を整える。ダンジョン攻略はせずとも、結局は攻略用の服装に着替えなければならない。熱帯みたいな環境で、いまだに学生服を着させる日本の教育期間は本当に頭がどうかしている。それが証拠に、汗が滝のように止めどなく流れていた。

 まずはシャワーを浴びないと。俺は急いで玄関を抜けると、そのままにバスルームへと雪崩れ込んでいた。


◆◇◆


「よし、こんなものかな」


 外界へと出た後、俺はサクッとゴブリン達を倒していた。


 罠師を選んだ理由がここにある。強いモンスターには効かないものの、ザコと呼ばれるモンスター達は一気に狩れてしまうのだ。

 落とし穴に落とせば、網で捕まえれば、そもそも戦闘にすらならない。

 他のジョブよりも安全に外界へと進めるというわけだ。


「さて、今日はどんな掘り出し物に出会えるかな!」

 

 あんなことがあった手前、さっさと未練を断ち切ろう。俺は自らを鼓舞し、ワクワクすることにする。


「ん?」


 今、女性の声がしたような?

 聞こえた先は丁度先、目的の街に聳え立つ最後の砦、チバニアン遺跡へと足を運んだ。


 入ってすぐ、遺跡の目の前。眼前にいたのはバグナントに襲われている1人の少女だった。

 

 バグナントは異質なモンスターだ。

 コボルトやラミアのようないわゆる種族名ではない。正確にはバグナント病に罹ってしまった元人間のことを指す。

 プリーストという人智を超えた癒しのスキルが現れた現在、日本三大疾病というくくりは、消滅している。だが、それに取って変わられたのがバグナント病だ。

 原因はスキルの使い過ぎと言われている。スキルという超常の力に体が蝕まれ、特撮に出てくるような怪物へと変異してしまうのだ。

 特徴は、胸の辺りに金属製のネームタグがつくこと。そしてタグには、バグナントの力を象徴する言葉が刻まれている。


「MAGNUM……」


 頭、両腕が、名の通りマグナムへと変貌している。もはや人ではない。ゾンビのような物だ。殺しても殺人罪に問われないと言えば、その危険さが伝わるだろうか。


「まずいな……」


 バグナントは、変異が進むほど、人間離れしていく。目の前の怪物は最終変異と呼ばれる化け物形態。こうなってしまうと、A級以上のスキルでないと太刀打ちできない。

 だが俺は所詮罠師。事前に罠を仕掛けることでモンスターを攻略するいわゆる頭脳派のジョブだ。Cランクが関の山。要は攻略不可。


 でもこのままではあの子が死んでしまう。今助けられる状況にあるのは俺しかいない。見殺しにすることはできない!


「クソッ!」


 俺は自身の持つCランクスキル、ポジション・シャッフルを使う。


「お前の相手は、俺だ!」


 女の子と位置を入れ替え、彼女を庇うように前へ出た。

 

「ジャマ……ドケ……」


 しかしどうやら怪物は適当に相手を選んでいるわけではないようで。

 3つのリボルバーから、エネルギー弾が放たれ、なんと追尾弾のように方向転換。少女を的確に狙ってきた。


「危ねぇ!」


 咄嗟に彼女を庇う。

 そのせいで全弾が体に命中。

 体から力が抜け、ドサっとその場に倒れてしまった。


「大丈夫……?」


 少女がこちらを心配そうに覗き込む。クリーム色の神に赤い瞳。成長すれば間違いなく美人さんになるだろう風貌。


 ボーイ・ミーツ・ガールとでもふざけたいところだったが、今や満身創痍。死を覚悟するしかなかった。


 でも死んでしまえば、十中八九、彼女が次の標的なる。ここで死ぬわけにはいかない。

 つい先程まで、無力感に囚われていたのが一転、心には火が灯って仕方が無かった。


「絶対に助けて見せる! 絶対に!」


 力の限り、強く叫んだ。


 すると、頭の上に何かが落ちた。拾ってみると真っ黒い鳥の羽。


 見上げると、そこには1匹の烏がいた。

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スキル・ゼロでも世界最強〜追放された罠師、拾った少女を救うべく、ダンジョン世界で無双する〜 紫焔の復讐者 @VioletRevellion

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