第三十五話「過去の痛みと漏れ出る狂気」


「確かに、これからも優姫を守ってね先輩?」


「とにかく飯……二人とも席に」


「うん、そうだね」


 ちなみに食事の時の配置で揉めたりしたが結局、俺は優姫と背中合わせで座り隣は紅林がガードするという形になった。不謹慎だが俺は三人で何か出来たのが少しだけ嬉しかった。




「本日はハイキングしつつ、湖まで向かう!!」


 朝食後は朝霞の案内で俺達は機材の調整の要望の有った二年生を除いたメンバーで目的地に到着した。見ると湖の周りにはキャンパーや俺達と同じ大学生風の人間もチラチラ見える。


「割と賑わってるな今年は……」


「そうなんだ……」


 俺の言葉に反応したのは優姫だった。やはり男が多いのか少し及び腰だ。先ほどの件も有ったし俺も周囲を警戒しようと思っていた矢先に前の三芳と小川が嫌な声を出していた。


「おいおい……あいつら」


「ん? フット猿共じゃねえか……何でいんだ?」


 二人の声に視線を向けると我が大学で悪名高いフットサル同好会の『FB&G』の一団が居た。男女比は7対3くらいで俺が入学する三年前に出来た新興のサークルだと先輩には聞いた。


「また人数増えてるな……」


「そうなのか……人数は二十人以上、三十人はいるか?」


「あれで半分より少ないくらいだぜ御曹司」


 何だかんだで俺は大学のコミュニティに疎いから二人の情報には助けられる事が多い。そんな事を思っていたら俺達に合流して来たのは朝霞たちだった。


「北城、いいか?」


「朝霞? どうしたんだ?」


「リサーチ不足だった……場所を変えたい」


 朝霞にしては珍しく焦った表情で、視線の先には紅林が居て俺には何が言いたいのか理解できなかった。


「どういう意味だ?」


「それは……」


 だが朝霞が事情を話す前に無駄に大きい不快な声が響いた。その声の主は当然のようにフットサル同好会の側からだった。


「おやおや~、そこにいるのは我が大学の代表サークル様のAPの皆さんじゃあ、ないですか!!」


「お、マジだ、偶然じゃ~ん!!」


「カメラ部の人たち、元気っすか~!!」


 その一団の中から出て来たのは三人の男と二人の女どうやら向こうも代替わりしたようで俺にからんで来た四年は居なくて良かった。


「何か用ですか? フット猿の皆さん?」


「朝霞さぁ~ん、同じ大学同士なんですからフレンドリーに生きましょうよ~」


「そうっすよ、俺らは皆仲良くがモットーですから~」


 どうしてだろう、この連中を見てると異様な不快感が込み上げて来る。そこで気付いた……こいつらの雰囲気は俺の大嫌いな兄達に似ている。


「こちらは課外活動中でして後日に……」


「そんなぁ~、この間みたいにぃ~もっと話しませ~ん? ほら、紅林さんも居るんだしさ、なぁ? なぁ?」


「「うぇ~い!!」」


 そこで思い出した。コイツらは学期始めに紅林に声をかけ、そこを朝霞に妨害されたと先輩達が話していた。なるほど……つまり因縁付けられたか。




「とにかく今は忙しいので……」


「じゃあ、紅林さんとだけでも話させて下さいよ~、一年なら暇っしょ?」


 完全にらちが明かない。それに先ほどからリーダー格の長身の男と隣の無駄に焼いているサーファーのような感じの男が紅林に向ける視線は丸分かりだ。


「ですから!!」


「大学の外なんですから~、それにぃ横瀬さんも居ないですし、今日は無礼講で行きましょうよ~」


 あの時は学内で人目も有ったが今は違うと暗に言っている。それに横瀬先輩という大学での実力者が居ないというのも効いている。あんな感じのダメダメ就活生だが大学内の人脈が凄い人だったりする。


「お前らさ、ガチ目にウザいわ……朝霞が断ってんだろ」


「おい、三芳!!」


 だが、そんな事を考えていると我慢の限界が来たのは俺達サイドで筆頭は三芳そして新副代表だった。三芳が前に出て副代表は朝霞の壁になっていた。


「ああん? んなこと言わないでよ、三芳くぅ~ん」


「もうフラれてんだろ? 未練たらしいんだよ」


「うっわショック~、俺フラれたのかよ、でもぉ、三芳くんも一緒っしょ?」


 そう言うと目の前の男は下卑た笑みを浮かべて三芳に言った。


「は? 何を言って――――「俺さ、俺、今リサのセフレなんよ、お前の元カノ~」


「っ!? はぁ?」


「聞いたよ~、三芳くんって口は上手いけど、エッチはクソ下手らしいじゃ~ん?」


 そう言われた瞬間、三芳は一歩引いてトーンダウンしていた。そして俺もイラっとした。下品だし不愉快だ。ギャハギャハ笑ってるのは向こうのサークル連中だけだ。


「っ……だ、だから……どう、したんだよ……」


「キレんなよ~、俺ら穴兄弟なんだしさ~、だろ? ブラザー!!」


 その言葉で完全に三芳は折れていた。睨みつけるだけで文句も言えず……こいつは嫌な奴だが目の前の金髪野郎に比べたら幾分かマシだ。イライラする。


「そんなんだから女の子取られちゃうんだぜ~? あれだろ、こういうのオタクくんが言ってるNTRって言うんだろ~?」


「ギャハハハハ、ウケる~!! NGOの親戚かよ~」


「よっ、寝取られの三芳くぅ~ん、目の前でぇ――――ぐおっ!?」


 不快だうるさい気持ち悪い……いい加減にしろ。今、分かった。俺は三芳に過去を重ねてしまった……最悪だ。その事に相手を殴り飛ばしてから気付いた。




「……タダシ君が一発KOとか」


「てんめえ……って北城の御曹司!? 何で、いんだよ……陰キャだから参加してねえんじゃなかったのか!?」


 無意識に奴らの目の前に移動していたと気が付いたがもう遅い。あと陰キャだってこういう行事くらい出たいと思う。


「悪い……手が滑った……陰キャだから許してくれ」


「え、いやいやいや、いくら北城くんでもさ~」


 俺だからなんだ? 本当に不愉快だ。昔の何も出来なかった……いや三芳は相手に立ち向かっただけ俺より立派だ。その姿をバカにするのはユルセナイ。それにもう一つ気に食わないことも言っていた。


「うるさい、それと紅林に用が有るって聞こえたが?」


「えっ!? ちょっと!? 悠斗先輩!?」


 珍しく慌てた様子の紅林にスカッとする。いつも、いつも俺を遠ざけて、俺から逃げて最後は蚊帳の外にする紅林が慌てているのは気分が良い。だから思わず宣言していた。


「昔とは違う……今は、今は!! 二人は僕のだ誰にも渡さない……絶対に!!」


 今の純粋なドス黒い欲望を吐き出し叫んでいた。

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2025年1月10日 19:00

寝取られた後の三角関係? ――トラウマだらけの恋だけど―― 他津哉 @aekanarukan

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