本に閉じ込められた時間。

今回、morgenさんにきっかけを頂いて、「グスコーブドリの伝記」を読んだ。実は私はこの本を読むのは三度目で、小学四年生、中学二年生、そして現在だ。一章を読了すると、小学生の私は親が居なくなる意味を理解していなかったことを思い出した。純粋に物語としての面白さを楽しんでいたと思う。中学生の私は、親が子供を捨てて家出したのだと思った。反抗期もあったとは思うが、いじめられていた事実もあり、人の美しさをまったく忘れていた。そして大学生になった現在、食糧難から、生きられる確信もないのに、家を出たのだと感じた。これを美しさと定義できるのが、大学生らしいとも思う。同じ文章でもまるで鏡のように、当時の私を映して保存していてくれる。時間を超えて一方的に過去の私が言葉を投げ掛けてくる。

 この本においてのオリザとは現実世界にも存在していると思う。食料としてではなく、世界を私として思えば、思い通りにいかない、しかし無ければ生きることがつらくなる。そんな儚い存在。現在の私にとっては、人間関係と言えるかもしれない。残念ながら一人で生きていける強さを私は持ち合わせていない。過去の私に、私にとってのオリザは何。と問いかける。確かにこの本の中には過去の私が居て、初めてコミュニケーションが取れた気がした。小学生の私が、サッカーのレギュラーと答えるのが可愛らしい。当時考えられなかったことも、時間がたって本を開けば当時の思考に考えてもらうことができる。

 最後のワンシーン、憧れを抱くだけの私、所詮フィクションと終わらせてしまう過去の私から、自分の過去と同じ境遇の人を救う、人間賛美だと思えるようになった。私の人生が私を形成する意味あるものになったと思える。

 今回もまた、本に対していろいろな感想を抱きながら、時間を栞にして本を閉じた。未来の私と対話できることを楽しみに思い、微笑んだ私が映っていただろう。

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本に閉じ込められた時間。 王生 くるみ @re-610

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