第12話

 しかし「先生」と一緒に仕事をするためには――プロになるためには、狭き門をくぐり抜ける覚悟と能力がなければならない。


 これから先、母も祖母も、リクも、さらなる病苦にさいなまれ、家庭はさらなる悲劇を迎えるかもしれない。そのなかで、わたしに残された時間は、限りある。


 もし、この一年のうちに、なにも手ごたえを得られないままだったら?

 ――いや、この問い方を変えるべきなのだ。

 もし、この一年のうちに、なにか手ごたえを掴むことができたとしたら?


 腹をくくって、小説を書くしかない。

 お前にはムリだ、という声がどこからか聞こえてくる。それは、わたしのこころの中にある「世間体」のようなものから発せられているらしい。きっと、わたしの挑戦を周りはわらうことだろうと、思っているらしい。


 しかし、わたしは負けない。負けてはならない。勝負の土俵に立たなければならない。未完のまま終わった研究が、わたしの背中を押している。次は、目標を達成してみろと。…………


     *     *     *


 わたしの身体は、悲鳴を上げつつある。それでも、書くしかない。しかし、なんの結果もでない。というより、コンテストに応募する回数も減っている。


 どこかで、一息を吐かなければ、倒れてしまうかもしれない。そう思いながらも、書かないことは、ことなのだと、勝手に脳が変換してしまう。


 だから、私小説を書こうと思った。


 それは、散らばっていく感情を一本の束にするための作業であり、もう一度、年始のような気持ちに戻るために必要なことだった。


 私小説の性格上、書くことのできないことは、山ほどある。しかし、わたしの抱いてきた感情については、意識的には本当のことを書いていると思う。


 再び永い夜になる前に、わたしは希望の光を見つけ出さなければならない。

 この私小説は、こうした意気込みを記して締めるにふさわしい。


 もう二度と、こうした私小説を書かなくても済むようにしたいけれど、人生は、どうしようもないくらい気まぐれで、ひとひとりの力では、思うように動かすことなんてできない。だから、これから先のことなんて、分かりようがないのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

永い夜になる前に 紫鳥コウ @Smilitary

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ