第7話 5月19日 午後4時59分(ショーコ宅)
「な、なあ、さつき。どうしたの、それ」
何があっても部屋に来るように。そうショーコに呼び出された理恵は、頭部、左前腕、左大腿部及び足首をカーゼ、包帯で処置している状態で座椅子に座っているさつきを見て立ち尽くしていた。
「ちょっと、ね」
「ちょっとじゃないだろ。それにそこ、けっこういってるんじゃ……」
理恵は特に厚くガーゼが巻かれた左足を指し不安そうな表情を浮かべる。
「大丈夫。骨は問題なかったから」
ああ、うう。
「骨はって。今日休んだのその怪我?」
うう、もう。うう。
「うん、まあそんなとこ」
おお、えええ。おおうう。
「で、ショーコはなんでこんな……?」
理恵は、うめき声を発しながらこたつテーブルに突っ伏しているショーコを指す。
「大丈夫、すぐ治るから。それで」
さつきはテレビモニターのリモコンを持って、停止していた動画を再生した。
「ちょっと理恵に観て欲しいのがあって」
モニターに暗闇を照らすライトが上下左右に揺れるだけの動画が流れる。
理恵は戸惑いながら、さつきと画面を交互に見た後、さつきに圧に負けモニターの動画に集中した。
数分後、ちょ、ちょっと。と理恵はその場に座り込み、はあはあと肩を揺らす。
「ん?なに」
「ご、ごめん。さつき一回これ止めて」
「うん、いいけど」
さつきは座椅子に座ったままリモコンを手の中でくるくると回し動画を停止した。
「なあ、これってさ。さつきの怪我と関係あんの?」
理恵は両目をマッサージしながら言った。
「あると言えばある。あ、理恵そろそろ」
そう言うと同時にさつきは動画を再生した。
「早いっていうか無理だって!大体ぶれすぎなんだよ。何だ、この殺人映像は!」
「昨日たまたま撮ったやつなんだけど、なんかおかしなものが映ってたら教えて欲しいのよ。2人で観るより効率的だから」
さつきはこたつテーブルに顔を乗せたまま動かなくなっていたショーコの頭を持ち上げ、モニターに目を向けさせた。
「うう、さつきちゃん……。これ気持ち悪いよ。霊映ってないよ」
「まだ10回ぐらいでしょ、どこかに映っているはずだから見つけなさい。ほら理恵も」
「大体にしておかしなものってなんだよ!」
理恵は口を手で押さえながら言った。
「あああ、もうだめだあ。脳の映像が全部これに上書きされるよおお!」
ショーコは目を押さえながら部屋の中を転げまわる。
「なあ、お前らさ。そもそもこれ何の為に撮ったんだ?」
「ほら、理恵ちゃんが戸惑ってるよ。途中説明なしのクライマックスは無理があると」
「2人共見つからないの?じゃあ、また最初から」
さつきはリモコンで動画を戻した。
「えええ、また最初からって、だ、だめ、今まさに限界突破……、あっ。さつきちゃん止めてっ!」
「え、どこ?」
「ちょっと戻って。うん、そっからちょっとづつ……、今!ここアップに。ほらほら、さつきちゃん。これオーヴじゃない!?」
「え、おーぶ?」
口を押えながら理恵も画面に近づいた。
「うーん、ちょっと前後を確認しないと」
「だから、おーぶって」
「ほら、ここ。さっきまでなかったのに急に白いものが!」
ショーコは金網に映る白い霧のようなものを指差して言った。
さつきは画面に近づき、拡大、縮小を繰り返した後、間違いない、と呟く。
「あんたの言うとおり、これはオーヴだと思う」
「やった、さつきちゃん!心霊動画撮れたよ!だからもう観なくていいよね!」
ショーコはさつきに後ろから抱きついた。
「最初としてはまあまあじゃない。そして」
さつきはショーコをつき離しカメラを指差した。
「ファミレスの動画は削除しなさい」
「ぐ、仕方ない。約束は守るよ、さつきちゃん。それが霊への礼儀」
「だからあ!おーぶってなんだよ!」
理恵はさつきとショーコの二人の肩を掴んで言った。
霊を撮るなら、前からそして後ろから がら がらんどう @garanndou
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