第五回 ギルドについて

 今回は小説の書き方というより、歴史の授業です。


 よくファンタジーものの作品で『ギルド』という組織が登場します。


 世界各地にギルドという共通の管理運営体制が敷かれた謎の組織です。


 おまけに『ランク』と呼ばれる謎の階級が世界共通で通用し、常にランクに応じた依頼が存在しています。


 別にそれが悪いというわけではないですし、テンプレート化されていて共通認識できるという点では良いとは思います。


 これが現代のように即座に情報を共有できるという時代なら良いとは思うのですが、組織の存在としてあまりにも不自然だなと常日頃から思っている次第です。


 まずは現実世界での『ギルド』について簡単に触れてみます。

 正直私自身、歴史に疎い方ですので教科書とかウィキ頼りの知識です。


◇ ◇ ◇


 元々ギルドは中世ヨーロッパに誕生した組織で、血縁ではなく地縁や同業者によって互いに助けあう組織として生まれたものです。


 最初に生まれたのは『商人ギルド』です。


 各都市間での交易をする上で、ギルドに所属しているもの同士のみで行うという、良く言えば安定した交易が可能であり、悪く言えばするというものです。


 参加できるのは都市の発展に大きく寄与したのみです。


 当然ながらその規模は徐々に膨らんでいき、やがて政治的発言力を持つにまで至ります。

 市政に参加できるのは商人ギルドに参加している大商人のみ。そんな時代になりました。


 そして、それに対抗するように生まれたのが『同職ギルド』というものです。


 例えば、鍛冶屋には鍛冶屋の親方と弟子がいて、そういった鍛冶屋が集まって鍛冶屋ギルドを作るといった感じです。

 他にも毛織物業、大工、運送屋、農業など様々な同職ギルドが生まれました。


 しかし、こういった同職ギルドには市政への権利が無かったため、闘争が行われた結果、各ギルドの親方は参政権を手に入れる事ができました。


 こうして生まれた各種ギルドでしたが、結局のところ参政権を持つのは一部の利権を持つ者だけでした。


 そのため、近代に発生した市民革命によって解体されることとなりました。



 ここまではヨーロッパでのギルドでしたが、日本にもギルドと呼べるものは存在しました。


 それが中世日本における『』です。


 仕入れを独占して、座に属する事業者のみでの販売を許可し、それ以外の事業者を排斥していました。


 基本的にはヨーロッパと似たようなものでしたが、解体のされ方が異なります。


 それが織田信長の行った『楽市楽座令らくいちらくざれい』です。


 一部の座による独占した商売から自由な商売を認める規制緩和政策によって、大きな経済成長が実現しました。


 更に豊臣秀吉によって、一部を除くほぼ全ての座が完全に解体されることとなりました。


 ヨーロッパでは市民革命によって解体されたギルドが、日本では権力者によって解体されたわけです。

 こうした所にも国民性が出ているのかもしれません。


 余談ですが『銀座』はがあったからです。


 ◇ ◇ ◇


 というのが現実世界でのギルドです。ながい。


 現実のギルドは、金持ちの集まりが更に集まって権力を持つための組織という感じですね。

 創作物でもよく商人が権力を持っていることが多いのですが、どうして権力を持っているのか知った上で書いたほうが良いかなと思います。


 さて、話を戻して創作物でのギルドと現実のギルドとではかなり乖離しています。


 仮に『冒険者ギルド』という同職ギルドが存在したとして、冒険者内で全てを完結するような組織となるため、その運営にはやはり違和感があります。

 創作物の冒険者ギルドを成立させるには、現実世界での商人ギルドレベルの規模が必要なのではないでしょうか。


 また、同職ギルドであれば師弟制度が存在するため、もし描くなら高ランク者は低ランク者に対して教えるのが仕事の一つというのも面白いかもしれませんね。


 そもそもランクというものの存在自体が全国の冒険者ギルドで通用するというものが、情報流通の乏しい時代では現実的ではないため、資格や免許証の方が現実的かもしれません。

 

 ギルドを現実世界のギルドに沿わせる必要はありませんが、もし同職ギルドの闘争後にするのであれば、高ランク者は市政への参加が可能という設定もありかもしれないですね。


 他にも冒険者はモンスターを倒すのが主な仕事なのであれば、現実の猟友会の活動を調べてそれを参考にしても良いかもしれません。


 必ずしも現実に即して描く必要はないですし、フィクションだからこその面白さもあるとは思います。


 しかし、現実ではなぜそういった制度が生まれたのか、現実でどう運用されたのか、そういった歴史を紐解くのは作品のアイデアにもなりますし、世界観により説得力を産む材料になるかもしれません。


 少なくとも、こうして現実世界と創作世界との比較をするだけでアイデアが止まりませんしね。



 ちなみに私の小説ではこんな感じにしています。


◇ ◇ ◇


金色の旅路 第七話

https://kakuyomu.jp/works/16817330651333512682/episodes/16817330651333798936


 こうした困りごとは報酬を提示した上で、各村や近隣の村が共同して運営する『ギルド』という協同組合に集まっている。


 この村のような小さい規模では農業、狩猟その他の協同組合が全て合わさっていることが多いようだ。


 大きい街では農業ギルドなどが中間卸売業や組合員への農業指導、農具の共同購入や管理、そしてそれらに出資して利益の一部の配分を得る准組合員といったものがある。もちろん狩猟ギルドでも似たような仕組みで、冒険者ギルドは就職活動やリクルートの場といった感じだろうか。


 結局のところ、こういうところは並行世界だからなのか効率化の終着点だからなのか、根幹世界の仕組みと同じような仕組みの物が動いている。


 ただ、実際には国が発行する狩猟免許や魔法免許など、免許や資格が必要な仕事も多いので、仮に達成可能な能力があってもなかなか手が出せない仕事も多い。


◇ ◇ ◇


 要は農業組合や漁業組合ですね。


 ちなみにこれ、本編に全く絡まないこの瞬間にだけ使われた設定です。


 こういう世界観を広げるようなネタがあったほうがいいかなーっと思って、思いつきで入れたものです。



 今回は長くなってしまいましたが、小説を書くのに必要なのは国語だけじゃなくて、歴史の授業も必要なんだということがわかったのではないでしょうか。


 おい、聞いてるか学生時代の私よ。

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