壊れ始める運命
第18話 兄弟
時は遡って、夕方。
それは、なんてことのない一日の終わり。
「あ゛ぁ゛〜゛、つ゛か゛れ゛た゛」
と、全ての文字に濁点がついているような声を出して倒れ込むフナファ。少しかわいそうなので、労ってやる。
「お疲れ様〜」
「あ〜、うん。ありがとう」
あまり嬉しくないのか? そんなことを思っていると、台所から夕飯を作っていたカノヤが顔を出してきた。
「こら〜、床に倒れるな」
咎めているようだが、柔らかな声で楽しんでいるように思える。いつもの光景、平穏な毎日。目の前のやり取りは、そう言った安心から生まれるのだろう。
嫌な予感がする。こんな、明らかにおかしな思考をしてしまうほど。日が落ちてき始めた頃から、危機感が、圧迫感が、緊張感が、胸中に溢れ出してくる。
「えぇ〜、いいじゃん。兄ちゃんも言ってよ」
「……」
これは、『流転する運命』の力だろう。ただ、俺は本来の力を引き出せていない。
「黙ってないで何か言ったら〜?」
神の知識には『流転する運命』の予知だとあるが、それは『世界に与えた影響力』に比例して強くなるとある。
「いや。ミチャノラがさっきからずっと黙っているからどうしたのかと思ってな」
つまり、俺の与えた影響力程度じゃなんらかの危機が迫っている程度しかわからないのだ。その危機が『いつ、誰が、何をして、その結果どのような被害を俺が受けるのか』ということは一切不明。
「ミチャノラ〜?」
「お〜い」
焦燥感が心のうちに広がっていく。
爪を噛む。
どうしたらいいのだろうか? もしかしたら何もしないと言うのが正解かもしれないし、違うのかもしれない。
「え? 聞こえてない?」
「何考えてんだろうな」
いや、危機感を感じるのだ。何か、はしなくてはいけないのかもしれない。
あぁ、全てが推測でしかない。
今の俺にはあまりに知識が、経験が、力が、それら全ての理解把握が足りない。
「イタズラでもするか?」
「いいかも」
力は存在はしているのだ。ただ、その力の本質というか、何ができて何ができないのか、全然把握できていない。知識もあるのに、それらを全て理解しているわけでもなければ、望んだ知識をすぐに引き出せるわけでもない。
「何にする?」
「やっぱ、背後からワッ、とか?」
もし、全ての知識を精査すれば解決の糸口くらいは掴めるのかもしれない。だが、それにはどれだけの時間が必要になるのだろうか? 一時間とかそう言ったものではない。少なくとも、一週間。いや、本気で精査するのなら年単位だろう。
……無理だな。
目の前に迫っているらしき危機はそんな未来のことなわけがない。もしもそうだったら邪魔で邪魔で仕方がない。つまり、直近で半日内にその“危機”は起きるのだろう。
たぶn
「ワッ!!!」
「ウワッ!!??」
振り返れば、満面の笑みを浮かべているフナファとソタナ。二人の笑顔に、怒ることもバカらしく思えて溜め息を吐き出す。それにしても君たち、仲良いね。羨ましいよ。
いつかの記憶が頭をよぎり、そして、そして──あぁ、なんだったのだろうか。なにかを忘れて……、そうだ。二人の家族愛の美しさについてだった。
「仲良し、だね」
良きかな、良きかな。
「当たり前だろ?」
『変なことを聞いてくるんだな』とでも言いたげなフナファの表情に、価値観の違いというやつが横たわっているのがわかった。
それは、多分生きてきた環境とかが違うせいだろう。
向こうは、高度な文明に頼っていない生活をしていて、こちらはどっぷり浸かってしまっている。
今度な文明に頼らないのは彼らの特性ゆえではあろう。だが、そんなことは関係なく価値観の違いは、俺に異世界に来たのだということを改めて感じさせてくれる。
……彼らの、特性?
知らない知識。いや、植え付けられていたが、見落としてしまった知識。それは、いやらしく巧妙に隠されていたもので、下手をしたら、もう一度死ぬまで分からな買ったと思ってしまうようなもの。ノノノタ・クラシャマ遺跡が生んだ被害について強く意識しなければ、出てこないものだ。概要をさらりと知ろうとしただけでは分からない。もっと奥深く、それこそ論文でも書こうとするぐらいに深く知ろうとしなければ、この事実は知りようがない。
知識は持ってるだけでは意味がない。それこそ、辞書を持っていても使えなくては何の意味もない。そういうことなのだ。それを、今まさに突きつけられた気分である。間に合うだろうか? いや、間に合わせなくてはいけない。死にたくないのなら。
「さっきから、何を考えてるの?」
急に黙り込んだからか、声をかけてくるフナファ。心配そうな表情なのに、知ってしまった自分はそれを真に受けることができない。引き攣った表情になっていないだろうか。勤めて冷静になろうと、深呼吸を一つする。
「何を、か。俺の未来について、かな?」
随分とぼかした言い方だとは、わかっている。けれど、誤魔化すのが上手くない俺にはこれが精一杯なのだ。
「ふ〜ん。それより、晩御飯はここで食べる? それとも向こうで宴会やってるけど、そっち行く?」
宴会へと誘導したいのだろう。誘われているなら、行くしかない。決して、酒が飲みたいというわけではない(ここ重要)。
そんなわけで、外へと出てみる。
ザワザワと、村の入り口にはなぜか人が集まっている。
「何かあったのかな?」
前にいたソタナが不思議そうに声を上げる。お前、警備隊の人だろ? それでいいのか?
やはり、いいことではなかったようで、ソタナは早足で人混みへと向かっていく。俺も野次馬根性を働かせてその後をついていく。
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