第15話 旅





「それじゃあ、旅人になって楽しいことってなんなんだ?」


 おっと〜、『旅は何が楽しいのか問題』きた〜。


「旅っていうのはだな。見聞を広める手段の一つだ。旅をして、知識にしかなかったもの、知識にすらなかったものを五感全てを使って感じる。見知らぬ旅先の人と話して、新しい気づきをする。そんな少しの未知を求めて、多くの人は旅をする。それだけ、のことを求めてるんだ」


「お前もか?」


「ん〜、見聞を広めると言う点に関しちゃそうだが、別にそれ以外も理由はあるしな」


「へ〜、どんな?」


 『どんな?』


 『どんな?』ときたか。


「……俺は、そうするしかなかったから、かな。いろんな事情を抱えて、放浪するしかなくなったやつがいる。俺もその一人ってところだ」


 するり、と本音が漏れ出てしまった。


 まぁ、いいだろう。あとで辻褄合わせの設定でも考えれば良い。


「ふ〜ん」


 つまらなそうなフナファの声を聞いてしまうと、そんなのはどうだって良いと言わんばかりで、やる気が失せてくるが……。一応、設定は詰めておかないとあとでボロが出ちゃまずいからな。


「仕方がなく旅に出る人って多いのか?」


「さぁな。統計をとったわけでもないし、そうなってくると旅人より流浪人の方が近くなってくるしな」


 実際、この世界でどれほど旅が普及しているのかについてはよくわからない。流石にそこまでは知識にないし、ある情報だけで推測するしかなくなってくる。


「まぁ、仕方なく旅に出るってのは多くはないだろうけどな。やっぱ、感覚的には旅をしたいからしているやつの方が多いさ。たぶん」


「俺も、旅してみるかな」


 ポツリ、とかすかな呟きが耳に入ってくる。


「……なんでだ?」


「この村は良いところだって思うんだけど、つまらないんだ。なんも変わらない。ずっと俺はこのまま毎日を繰り返して行くだけだなんて、嫌だ。なにか変わってほしい。すっごいできごとみたいな、そういうのが。旅をしたら、飽きないでしょ?」


「旅に飽きるか……。そう言う人もいるはずだよ」


「……へ?」


 フナファの驚きようは、それはもうとても傑作だった。ポカンと口を半開きにし、視線は俺の顔に穴を開けるのかと言いたいぐらいに固定され、まさに『信じられない』という感情が露骨に出ている。


「旅を直視しないといけないよ。旅はいいこともあるけど、悪いこともある。むしろ、悪いことがあるからこそいいことが引き立つのかもしれない。だけど、そのいいことに“飽き”が来ることだってある。絶景を100個見て、もう見なくていいと思う人もいる。いろいろな食べ物を食べた結果、もう旅をしてまで食べ物探しをしたくないと思う人もいる。旅の目的が何かによってその理由は変わるけど、飽きる人は絶対いる」


 確かに、飽きないでずっと同じことをやっているやつだっている。だが、それはほんの一部でしかない。全員が全員、飽きない趣味や事物を持っていること、そちらの方があり得ない。


「一つのことにずっとのめり込むのはとても難しいことだ。天才って言葉があるけど、それは身につくのが早いという才能と、ずっとやり続けられる才能、二つを持ち合わせてないといけない。旅にもそれが当てはまるみたいなものさ」


 若干ずれていると思わなくもないし、途中から自分でも何言ってるかわからなくなったけど、なんか言いくるめられそうだから話を続けてしまった。


「そういうもん?」


「そう言うもんだろ。少なくとも、お前はいつでも帰れるような中級者向けの旅をお勧めするよ。あてもなく旅をするのは上級者編だから」


「それじゃあ、何が初級者編なんだよ」


「一泊二日の旅が初級者編」


「一泊二日って、ギリ隣の村に行けるかどうかじゃねぇか……」


「そんぐらいだっけ?」


 確かに、地図で計算すると隣村には行けるが、隣の隣の村は無理そうだ。


「あ、あぁ、確かにな。けど、特に用事もなく一日家を空けるだけでも旅になるってのは本当だしな」


「言葉の意味的に?」


「そんな感じ」


「そんな感じか……」


 旅ってのは、簡単じゃないんだよな〜。この世界で俺が野宿ありの旅やったら、自慢じゃないが普通に死ねる。


 これじゃあ、フナファに説教なんて言えないな……。むしろ俺がすべきは初級者編かもしれないのだから。


 …… maybe より must だったか?


「大変なんだな」


「この世界に大変じゃないことの方が少ないと思うんだが」


「はっ、そうかも」


「そうだろ」


 不毛な会話が続く。


 けど、少し楽しい。


「旅する時はきちんと準備しろよ」


「準備って、どんなのすればいいんだ?」


「あぁ、あれだよ。火打石とか、食料とか、テント、まで豪華にはいかなくてもいいけどそう言ったやつだよ」


「高くね?」


「高くない高くない。たぶん」


「そのたぶんってなにさ」


「たぶんってぇのはだな。明確な答えがわからない時とか、自信がない時の保険とかで使うんだよ。もし間違ってても許される魔法の言葉だぞ」


「嘘だろ」


「嘘じゃねぇぞ」


「……今度やってみよ」


 フナファに悪知恵を授けたりしながら、ロロス・イラムースの半日は過ぎていったのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る