第14話 昔話




 大昔から現在に至るまで、肥沃な大地堅い広がる、ここロロス・イラムースを含むノノノタ地方。


 ここに、ある遺跡が見つかった。


 地方と発見者の名前にあやかって、ノノノタ・クラシャマ遺跡と名付けられたその遺跡は、現在の技術を結集しても「わからない」ということしかわからない場所であった。


 調査は全く進まなかった。開けられない扉、厳重な罠が張り巡らされた通路、謎の地下空間へと繋がっている巨大な穴、用途のわからない部屋や武器、生活用品(?)の数々などなど。


 そして、最も驚くべきは巨大な穴の下にある地下都市の存在だ。


 その都市の大きさはノノノタ地方とされる一帯を優に超えており、一体どれほどの古代人が暮らしていたのかと思うほど。


 人口数、技術、全てにおいて現代を上回っているこの遺跡を多くの人々が日々探索し、考察し、その技術の一端でも使えないかと手を尽くしていた。


 悲劇が起こったのは、が明るみになったから。


 その遺跡の全てを掌握しているシステムがある部屋だ。


 なぜ開いたのか、などといったことは何もわからなかったが(俺の知識にはあるな……)、多くの人はその中身にしか興味はなかった。


 それが、全ての間違いの始まり。


 各国は、このシステムの所有者、つまり権利を持っているのが誰か、というのを議論し始めた。


 立地的には帝国領内。ただ、その遺跡にある物的価値及び知的価値は、誰もが喉から手が出るほど欲しがるようなものばかり。


 穏便な解決などできるはずはない。


 当初、各国に押されてしかたなく調査を認めていた帝国もこのシステムだけは譲らないと頑としている。


 話し合いは平行線だった。


 そして、戦争が始まった。


 いや、とある国が宣戦布告をし、遺跡内にいる全ての人間を排除しようとした時、どんな誤作動があったかは知らないが(俺の知識にはあるな……(2回目))、遺跡のシステムが起動した。してしまった。


 爆発が起こった。


 肥沃な大地が炎で覆われ、生物は等しく死に絶えた。


 それは、ノノノタ地方にとどまらず、帝国の南領土をほぼ全て焼き払った。炎は一年間消えることはなかった。雨が降ろうと、雪が降ろうと、全てを飲み込み、まっさらな大地を作り出した。


 ──フナファの話が終わり、大体のすり合わせができた。


 やっぱ、俺の持ってる知識は地雷だ。


 歴史家があーだこーだ推測して言っているものの答えを知っている。


 下手しなくても、この知識だけで世界を根本からひっくり返したりできるんだろうな。頭がいいやつなら。


 俺の貧弱な知能では不可能そうだが。


「それにしても、100年以上前の話なんだろ。誰か来てもおかしくはないだろ」


「みんないまだに怖がってるんだよ。遺跡内に勝手に入っちゃいけないって各国が決めたから、遺跡に用のある人は来ないし、この辺りにこれといった観光地なんてものもないから誰も来ない。出て行く人はいるけど、入ってくる人はほぼゼロ。少なくともこの村にはいない」


 さすが、『見捨てられたノノノタ地方』の名はご健在だそうだ。


「そうか。意外といないんだな」


「だからみんなお前のことを珍しく思ってる。怖がってもいるけど」


「まぁ、そんなものか」


 実際、誰も来ないような地に人が来るってのは物珍しいし、不審にも思う。いったい何をしに来たのか、なんの要件なのか。しかもそれが異世界人が現れた直後ということもあってか、余計にそう思ったことだろう。まぁ、俺が異世界人なんだけど。


「あっ、そう言えば、まだ符牒をやってなかったね」


 符牒。それは異世界人と人とを区別する方法。だが、なぜ今になって? 油断を誘うため? それとも、マニュアル的なものがあって、それに引っかかった? 


「符牒?」


「異世界人との符牒がなんだったか、調べたんだけど、見つかったのが昨日の夜で、一応俺にやれって村長が言ってたんだ」


「へぇ、そんなのないだろ?」


「……」


 フナファの力強い瞳。意識して、逸らさないように見つめ返す。


 無言。


 お互いに、黙りこくっている。


「うん。ひっからなかったね。旅人って言ってたから慣れてるの?」


 おい、これも引っかけだろ。


「毎回引っ掛けのネタが違うから緊張するよ」


 異世界人は、どこにでもいる。


 この世界ではゴキブリと同等かそれ以下の憎しみを持って対処しようと多くの人類が一致団結している。だから、続く言葉もこれでなくてはいけない。


「けど、これも異世界人を炙り出すためだからね。蛆虫はちゃんと潰さないとな」


「そうだよな」


 くわばらくわばら。


 俺はフナファの全ての異世界人を射殺すように瞳を見ながらそう思った。般若でももうちょっと可愛げがあるだろ。


「けど、よく知ってるよな。旅してたら、そういう知識はすぐつくのか?」


「あぁ、間違えられたら専門の人が来るまで酷い扱いをされるからな。もちろん、全てがそうであるわけじゃないけど。長く旅をしてれば一度か二度は受ける。まぁ、洗礼みたいなものだなんていう人もいるけど、俺は絶対やだね。このまま一生ミスをせずにいたいよ」


「旅人の苦労ってやつ?」


「宿命みたいなもんでもあるさ」


「へぇ」


 俺はようやっと話を異世界人から日常会話へと流れを逸らして、ようやっと落ち着いて会話を楽しめるのだった。



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