第13話 弟





「はぁ、もう良いから。それで、君って村長とかソタナとかとどう言った関係なの?」


 俺は目の前の彼ことフナファについてほとんど知らないのだ。俺がまともに話したのがソタナとイナスとカノヤなので、知らない方が普通かもしれないが、それはそれこれはこれ。


「ソタナは俺のにいちゃんだよ」


 おぉきましたよ。田舎特有のご近所付き合いってやつが。前世の俺にとってはあまり縁遠かったようで、ほとんど知識がないが、有用だと言うことはよくわかる。


「へぇ、ソタナの? あんまり似てない、な」


「にいちゃんは父さん似で、俺は母ちゃん似なんだ。お前はどうなんだよ」


「俺か? 俺は父親似だよ」


「そんな女みたいな顔なのにか?」


「まんま女と、女みたいな男の遺伝子が合体した結果が俺ってわけ。ふふふ、もしかしたら男らしさを母親の腹の中に置いてきちゃったのかもしれないけどな」


「ん? それって?」


「俺には弟がいるんだが、その弟は俺と違ってとっても堅い体つきだ。曰く、祖父に似てるだそうだ。実際、会ったことあるけど、瓜二つとまでは言わないけど、血が繋がってるんだな、って思ったよ」


 新設定追加。俺の前世に兄弟がいたなんて情報はないがこの際そんなのはどうだって良い。話のとっかかりが欲しかったのだ。


 共通点を持っていると言うのは、大きな強みだ。そこから会話を広げることなど造作もない。


「そうだな、俺たち似てるな」


「うん?」


「真反対の特徴を持った兄弟がいる」


「あぁ、そうだな」


「仲間、だな!」


 嬉しそうにはにかんだ笑顔を見せてくる。


「お、おぉ」


 純粋で、思わず心配になってしまうようなか弱さを感じる。


「ところで、お前の仲間っていうか友達とかいるんだろ? 教えてくれよ」


「友達……」


 『地雷を踏んだか?』と、そう思ってしまうような真剣な顔つきに、フナファはなった。けれどそれは、まるでガラスのように固くて脆いようにも思える。


「……いないのか?」


「この村って、今あんま子供がいないんだよ。同い年が三人以上いれば良い方でさ。けど、俺は一人だった。同い年なんていないし、他の奴らと遊んだりもしたけど、そこまで親密にはならなかった。にいちゃんがこの村で警備の隊長みたいになってからは、みんなとの関係も離れてって、今じゃ、孤高の一匹狼だよ」


 一匹狼は望んで一人でいるやつ、だったはず……。なのでちょっと違うと思うのだが、敢えて突っ込むのはよそう。


「それで、一人ってわけか?」


「一人じゃ、一人……」


 否定できてないし。落ち込んでるし。


 これじゃあ、俺が悪役みたいじゃないか!


「まぁ、俺がいるから、一人じゃあないな」


「……、どこにも行かない?」


「おいおい、仲間ってのは離れても永遠に仲間なんだぞ」


「そうなのか?」


「そうそう。俺が言うんだから間違いない」


 なんで、俺が言ったら間違いじゃないんだよ。と、一人でノリツッコミをしてしまった。


「そう、なんだ」


 ニコニコ〜、と笑顔の青年。嬉しいようで何よりだよ。


「そうそう。それじゃあ、仲間になったことだし、質問して良いか?」


「あ、うん」


 コイツ、まだニコニコしてやがる。そろそろシャキッとしろよ。


「聞きたいのは、だ。昨日の宴で、俺がきたからとか言ってたけど、本当の理由はなんなんだ? あの量をすぐに作るなんて無理だろ?」


 昨日の宴は、明らかにきちんと準備されていたものだった。俺がきてから急遽作りました、ってようなもんじゃなかったのだ。


 毎回、宴ができるように準備をしていた? 宿もなく、人の往来もほとんどないこの地で?


 あり得ない。なら、なぜなのか?


「あぁ、それか。うちの村って、毎月最低一回は宴会をするんだよ。だから、事前に作り置きできるものは全部作り置きしちゃってるんだってさ」


 又聞き感は強いが、間違ってはいないだろう。


「それと多分だけど、あの宴で『客人が』とか言ってたけど、あれは全部建前で、いつもは『今回もみんな揃っているので乾杯』とか言ってるぜ?」


 随分と緩い感じだ。おそらく宴会をすることが主目的であって、建前を作る方に苦労をさいているまであるかもしれない。


 いや、これは流石にない、よな?


 自分で考えておきながら自信がなくなってきたぞ。


 ここからわかるのは、この村の危機感はあってないようなもの、と言うことだろうか?


 2回ほど尋問というか、警戒をされていたが、あれをクリアしたら大抵の人は大丈夫と判断できる根拠があるのだろうか?


 もしかしたら、もしかしたらこれまで人がほとんど来なかったがために、対処法がうまく確立できていない。


 これまでの様子から考えると一番ありそうで、逆に怖いというやつだ。


「考えても仕方ないな」


「ん? なにが?」


「いや、宴会についてだな」


「そうか、宴会、楽しかったか?」


「あぁ、そうだな」


「客人が来たらいつもやるのか?」


「……客人は来ない」


 おっと、そうだった。


「みんな怖がってるんだ。もうとっくの昔の話なのに、いまだに怖がってる。お前も知ってるだろ」


「ちょっとだけならな」


「……聞きたいのか?」


 どうやら、顔に出ていたらしい。なにせ、“知識”にはあまりに、あまりにも赤裸々に真実が記されているのだ。間違いなく、彼らより俺の方が詳しい。それこそ、ちょっと齟齬が生じてしまないように知っておく必要がある、と思う程度には。という算段をつけてから、


「……まぁ、教えてくれるなら」


 と答える。俺の言葉に、どこあ満足げな顔して、


「そうか、じゃあ、話すよ」


 ろ、フナファはその話を、語り出した。



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