第10話 宴
「ミチャノラさ〜ん」
俺を叩き起こした言葉は、とても間延びしていた。寝起きのぼんやりとした頭では、その声が誰なのか一瞬わからなかった。
しかし、次第に自分がいる場所と状況を把握するにつれて記憶が戻ってきた。
「あ〜、カノヤ、さん?」
「はい。起きましたか〜?」
「寝ているように見えますか?」
体を起こしながらそう答える。
「……派手な寝相にも見えますね?」
ボケを期待したわけじゃないですよ? と言葉には出ずとも、俺の呆れ顔から言いたいことはわかるだろう。
「はは、あはは」
カノヤの笑い声が虚しく響く。気まずい雰囲気だな。見ていて哀愁すら覚えてしまう。
「それで、なにかようですか?」
と、こちらから言葉をかけたのは少し哀れみを覚えたからもあるが、話が進まなそうだったからというのも大きい。
現にカノヤは少し、いやかなりご乱心の様子で、俺の言葉さえ耳に入っていないご様子。
「カノヤさん?」
声を大にして言えば、「ハッ」とわざとらしくカノヤさんは反応して、こちらを見つめる。
「あ、あぁ、なんでしたっけ?」
「俺を起こした理由を教えてください、という話です」
「そ、そうでしたね。覚えていましたよ。で、ですね。宴会の準備ができたので、来るように、と」
強引に話を方向転換したが、明らかに覚えていなかったような反応じゃないか……。というよりも、聞こえていなかったの方が正しそうではある。そんな向こうさんの都合は置いておいて、と。
「そうですか、それじゃあ行きますかね」
「あ、ではついてきてください」
思い出したかのように、案内を開始。
とは言っても、部屋を出ればすぐ目の前に玄関があり、玄関から家を出てすぐに目的の隣の大きな建物がある。と、口頭説明でも簡単にわかるような場所だ。
それに、ほとんど歩いてないし。
「おぉ、よく来たよく来た」
と、きやすい言葉をけけてきたのは、知らぬ顔。しかも、ぐでんぐでんに酔っている。宴会は、始まっていなさそうだが、もうお酒を飲んでいるのか?
俺の背後からも数名、村の人たちが食事やお酒を運んでおり、それらが床の上に並べられていく。
全員が床に座っており、そうするのが当たり前と言わんばかりである。
「それで……、どこに座ればいいんだ?」
俺に声をかけてきた酔っぱらいを相手していたカノヤに声をかける。
「あぁ、あの村長の近く、かな?」
……かな?
なんて不安になる言葉だろう。されさえなかったら真っ直ぐ迎えたのいうのに。
だが、俺の願いは通じなかった。
「それじゃあ、飲みすぎないでね。私は手伝いに行くから」
と、(俺というより、酔っぱらいの方に)そう言って、去って行ってしまった。
一人残された、俺。
「ははは、にいちゃん。ここに座れよ」
酔っぱらいが話し相手を求めてか、俺に席を薦める。
「はぁ〜」
と、ため息を吐いて床に座る。
もちろん、床に直座り、というわけではない。なんらかの動物(もしくは魔物?)の毛皮などで作ったと思われる敷物があり。そこに編み込まれた装飾は、とても見事だ。この上に、食べ物のカスや、酒に酔ったやつがゲロを吐くのかと思うと勿体なく感じるぐらいには、だが。
そんなこんなで、食べ物が所狭しと並べ終わると、みんなが席につき始める。
「う〜、ヒック。にいちゃん、ここはいい村だろ? なんせな ゴクゴクプハーッ ふぅ、なんせだな、この村はずぅ〜、と村から見ると、地平線まで続くような畑があってだな。それを全部管理してるんだぜ。この村は帝国でも数少ない大量食糧生産地、ってわけだ。今は、ちょうど休閑って言ってな、畑を休ませてるところがあるから、素晴らしい景色とまでは言えねぇが、それでもいい場所よ。金はがっぽり入ってくるし、魔物は少ねぇ。にいちゃんも、ここにくるなんて、いい目してるなぁ」
と、隣では酔っぱらって周りを見ずに絡んでくる人もいるが、話にキリがついたのか、それとも辺りが静かになってきたからそれに倣ったのか、言葉を止め、ついでに酒を飲むのも止めている。
「さてと、珍しい時期に客人がきた。横の男がずいぶんと誇張した話をしていたが、実際、ここには畑しかない。こんな辺鄙な場所に来てくれたんだ。ちょっとしたおもてなしだ。それでは、乾杯!」
「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」
村長の掛け声に皆が揃って声を合わす。
というか、宴会ができる口実が欲しかっただけで俺が来なくてもしてたんじゃね?といったレベルで楽しんでいる。
知識によると、このあたりにはほとんど人が来ないというのは正しいようだ。
それでも、この歓迎はいまいちよくわからないが。
とりあえず、俺は周りに合わせて酒をちびりと飲んでみる。
美味しい、とは思わなかった。まずいと、とも思わなかった。
なんというか微妙。
ワイワイ騒いでいる村人は、ノリだけで楽しんでいるのだろうし、ノリがあるからこそ楽しく飲めるのかもしれない。
みんな、飲んで、食べて、笑って、くだらない会話をしている。ただそれだけの光景。
だけど、いい景色だ。
ふと、そう思った。
宴は日が暮れても続き、むしろよりいっそう盛り上がりを見せていった。
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