第8話 村長の家
俺を置いて村長の家に入っていった二人。仲がいいのは分かりましたが、客人を置いていくって、どうよ?
ちょっと、俺、泣いちゃうよ?
お〜い。
村長の家に入ってからも二人は楽しそうのおしゃべりを続けている。放置? これが放置プレイってやつでっか?
「あ、すみません。お茶出しますね」
もはやわざとなんじゃないかなと思うようなセリフを吐いてカノヤは奥の方へ引っ込んでいった。ソタナは困った様子で、カノヤの背を視線で追っている。
最終的に、俺が「座っていいか?」と聞くと慌てて、「大丈夫です!」と大声で答えてきた。
やはり、田舎ということもあってか客のもてなしなんて慣れてなさそうだ。
椅子に座って話すネタもなく、ただ静かにお互い黙りこくっている。
さすがに、このままは嫌だと思い、なんとなく質問をしてみる。そうだな、
「カノヤは彼女なのか?」
「はいっ!?」
ソタナのあまりにらしい反応に思わず笑みが浮かぶ。このようすでは。当たらずとも遠からずではあったようだが……。このままソタナで遊ぶのも面白いかもしれないと、話を広げてみる。
「違うのか? けど、カノヤっていう子、好きなんだろ?」
「そ、そ、そ」
「分かりやすいな。まるでお手本みたいだ」
「お、お手本?」
「いや、気にしなくていい。こっちの話だ」
どっちの話だよ、と自分で自分に突っ込む。そこまで考えたところで冷静になり、慣用句なんだから正しい使い方だろといった思考になった。
俺は一体何を考えているのだろうか?
「お茶できたよ」
俺の無言に耐えかねて視線をキョロキョロさせていたソタナが、カノヤの声に救いの天使でも見たかのように感動している。
そんなに触れられたくない話題だったか?
こんな田舎じゃすぐバレるだろ。こんなこと。
この世界にあるかは知らないが、井戸端会議で話題になっていそうな内容だと思うぞ?
「それで、なんとお呼びすれば?」
コトリ、とコップを机の上に置く音が鳴った。わざと立てたのだろう。雰囲気作りだろうか。カノヤの表情からはこれといった情報は得られない。
「……ミチャノラという」
俺とは挙動不審のソタナをチラリと見つめ、使い物にならないなと自ら名乗った。こいつ、なんで村長の村に案内を任されたのか。……カノヤに会うためか。あぁ、あぁ、お仲のよろしいこって。
彼女いない歴=前世+年齢という異色のプロフィールを持つ俺の嫉妬が火を吹くぜ! 前世の記憶なんてあってないようなもんだけど。ほぼ経験が抜け落ちて知識だけになってるから。
ツラツラと、そのような考えを巡らせていると、どうも視線が気になる。
ソタナとカノヤの視線だ。
こちらのことを扱いかねているらしい。これは、こちらから会話のキャッチボールをスタートする必要があるのだろうか?
コップを手に取り、「ズズズ」と飲んでみる。俺の思い浮かべたお茶に近い味が口内に広がった。
ようするに、抹茶のようなものだったということだ。
嬉しい反面、どういった入手経路でここにあるのかが謎だ。そこについて、掘り下げる、というのも会話の一つかもしれない。
グゥッ、と残ったお茶を最後まで一気に喉に流し込み。コン、と机の上に置いて一言。
「美味しかった」
「あ、ありがとうございます」
ここで『ごちそうさまでした』とは言わない。なぜなら、この世界には日本のような食前や食後の挨拶は基本ない。なにせ、この世界において99%の人が絶対神とやらを崇めているためだ。つまり、その啓典には食前食後に感謝の祈りを云々は乗ってないのだ。
聖人たちが残した言語録に『ご飯は大切ようにしようね〜』みたいなことが書いてあるらしいが、そのぐらい。
日本で慣れてしまった行動などは微妙にあり、それらを矯正するには少し時間が必要だ。それまでにポカを犯さないようにしなくては。
改めてそう意気込んだところで、ソタナとカノヤを窺う。
カノヤは俺が考えに耽っている間にコップを片付けに、ソタナは居心地悪そうに座っている。
彼らはどうも初対面の俺に対して緊張しているというか、距離感を測りかねているようで、まったく会話が続かない。せっかくボールを投げたのに、受け止めて即終了させてしまっている。
タダで泊まらせてもらっている身なのだ。雰囲気をこれ以上重くしないためにも、何かネタを言わなければならない。そんな、気がする。
『三人揃って無言で、お互いに話を切り出そうとしながらも切り出せないというこの状態。それが俺にとってはとても苦痛である。
なんか嫌じゃん。この気まずい感じ。
「あ〜。カノヤさん?」
「あっ、はい」
「あなたは、その、村長さんとどのような関係? なのでしょうか?」
少し声が震えてしまったが強引に話を続けた。バレてない、よな? それとも、流してくれた?
「私は村長の孫娘です」
よし、スルーしてくれた!
「なるほど、ちなみにご両親は……」
「それは……」
カタリ、とカノヤの言葉を遮るように音が鳴った。その場に座っていた俺たちの視線が戸口へと向かう。
そこには箒を立てかけている村長がいた。
「あぁ、帰ったよ」
こちらの視線に気づいた村長は、そのしわくちゃな顔のしわをさらに深くして笑いかけている。
「お帰り、おじいちゃん」
いち早く反応したカノヤが、立ち上がる。が、村長は座っておいていいと、手振りで伝えて台所の方へと入っていった。
再び、なんとも言えない沈黙が俺を含む三人の間に横たわった。
振り出しに戻っちまったじゃねぇか。
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