第4話 生と死と





[『流転の運命』の加護の効果により『蘇生』強制発動します]


[運命への干渉権が規定を満たしていません]


[規定に則り、前借りが行われます]


[ ………… ]


[前借りが実行されました]


[『流転の運命』によって『蘇生』が発動しました]



[ザッ……ザザザザッ……それでは、良い旅を……ザッ……ザザザッ]




 ψ ψ ψ




 崩れ落ちた俺の肉体。


 それを、呆然と見下ろす俺の存在があった。


 俺は、死んだのか?


 否。これは『蘇生』であり、『逃れへぬ死を克服する儀式』ためのものだ。つまり、俺は死んだとは言い難い状態であるのだ。魂は未だこの世界にある。復活までそれほど時間はかからない、はずだ。


 実際に、『蘇生』を体験したわけではないのでわからないが、少なくとも一日はかからない、と知識にあった。


 ただ、なぜか知らないが『蘇生』が行われる際のデメリットについてが塗りつぶされたようになっており、体験したらわかるよと軽い口調で記憶されている。


 これは……神の介入というやつか?


 転生させてもらった身で言うのもなんだが、楽しんでいるんだろうな〜、と思ってしまう。果たして神に感情があるか、というのは議論の余地がありそうだが……。


 そんなことより、と脱線しかけた思考を正す。これからどんなことがあってもいいように、与えられた知識を総浚いしておく必要がある。


 そのために……「ガッ、カハッ」


 痛み。とても強烈な、痛み。


 待ってました! とでも言わんばかりに、知識が流れ込んでくる。それは、『蘇生』の概要、つまりデメリットの公開。


 今、俺の見下ろしている中、帝国の『異世界人処理部隊』とか言う、ネーミングセンスなしかよといった奴らが、俺の肉体を燃やしている。


 それは、もう見事に。


 炎なんて前世ではほとんど見ていなかったので、『綺麗だな……』などと一瞬思ったが、それは一瞬でしかない。


 その炎で焼かれているのは俺の心臓で、俺が強烈な痛みを覚えているのが、これまた心臓だ。


「クソッタレが」


 思わず吐き出した暴言。


 だが、幽霊(?)となった俺の声を聞くものはいないので、不審に思うものも咎めるものもいない。


 あぁ、本当に、クソッタレだ。


 『蘇生』の条件。肉体が完全に原型を止めないまで崩壊すること。基準としては、肉体の8割がなくなること。つまり、骨がおおよそ10〜18%なので、骨以外全てなくならないと『蘇生』そのものが開始されない。


 肉体が崩壊するまでの間、俺はずっとこのような痛みに耐えていなければいけないのだ。


 脳内にあるのは運命に干渉するという破格の報酬のための辻褄合わせ、だそうだ。


 本当のところは疑わしいものだ。何せ、転生を頻繁にやったためか、色々な知識を植え付けるという手慣れた神だ。ちょっとしたイタズラなんてことも十分あり得る。


 だが、俺にそれを判別する方法はない。


 与えられたこの力で争うしかないのだ。



「グッ」



「ガァッ」



「ア、ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッッ!!??」



 だが、これは……。これはないだろ。


 転生した時に受けたような耐えられない痛み、ほどではない。かろうじて、思考ができる。だからこそ、より痛みを強く覚える。


 憎悪が、湧き出てくる。


 目の前で俺の体だったものが、燃えている。燃やされている。それを、『異世界人処理部隊』の奴らは見ている。炎の光に当てられて見えるそいつらの顔。そいつらは、まるで何にも感じていないような無表情。それでいて、その瞳は観察するように注視している。


 これで、わかった。


 こいつらは、『仕事』だからしているのだ。


 『異世界人処理部隊』の奴らは、ただ仕事だからと平然と人を殺す。まるで、いつもの作業をこなすように、俺の死も、日常の一部分でしかないのだ。


 こんなことが、許されていいのか?


 異世界人だから、殺していい存在なのか?


 違うだろ。


 そうじゃないだろ。


 俺は、睨みつける。俺を撃った男の顔を。


 俺は、睨みつける。俺の体に火をつけた女の顔を。


 俺は、睨みつける。それらをただ見ていた奴らの顔を。


 死んで、償え。


 俺と同じように、死でしか、お前の罪など消えはしない。


 体が、燃え上がって、消えていく。


 『蘇生』が開始され、意識が落ちるその瞬間まで、俺はそいつらの顔を見つめ続けた。いつか、彼らに復讐を行うために……。




 ψ ψ ψ




 今日、二件目の処理が終わった。


 神法の炎が、異世界人の肉体と魂を一つ残らず消し去る。


「今回は弱かったですね。それに、状況を理解できてなかったみたいですね」


 どこかつまらなそうに呟くのは、ミナ。神法を発動しながら愚痴るとは……。新人にしても、もう少しいい人材はいなかったのか? 人事局へと文句を言いたくなる。


「かわいそうにな。あいつ、旧神どもからなんの説明もうけてないんじゃね?」


 と、ケタケタと笑って同調するやつが。誰かと思えば、能力はあるくせに言動がいまだに矯正できないガラリロだ。こいつは、本当に踏んではいけない境界線を理解しているからなおタチが悪い。


 ダメだ。この班には、問題児しかいないのか……そういや、そうだったな。


「異世界人に情をかけるな」


 口頭で、注意をする。意味がないことなどわかっている。とはいえ、何もしないというのもいけない。


 だが、彼らの言っていることは間違いないのだ。あそこまで現状をまともに把握していないやつは近年稀に見る大馬鹿者だ。


 だからこそ、どこかひっかるものがないではない。が、それがどんな影響をもたらすのかは何もわからない。あの異世界人はもう死んでいるのだ。どうにもできない、はずだ。


 完全に神法の炎が消えた。くだらない思考を振り払い、拠点への帰還を合図する。


 喚くミナを引き摺りながら俺たちは任務を終えた。


 その夜は、以後これといった仕事はなかった。




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